西行と桜

2007.04.19
丹波春秋

 今年は天候のせいか、桜の咲いている期間がいつもより長く感じられたが、やはり別離の時は身にしみる。この春はサクラにも逝かれた。▼名にそぐわず、「花より団子」の食い気の固まりのような犬だったが、最後の方は水も受け入れず、ただただ虫の息だった。15歳余は人間で言えば、一昨春亡くした父と同じ87歳ほどか。▼ふと思い立って、河内の弘川寺(ひろかわでら=大阪府河南町)へ行った。800余年前、西行が「願はくは花の下にて春死なん」の歌の通りに入寂した寺で、葛城山の懐の静かな山里にあった。▼550年後、彼を慕って似雲という僧が、同寺に西行の墓所を探し当て、かたわらに自庵を建て住んだという。下って800年遠忌に裏山一帯に植えられた桜は、いかにも西行が好んだ風の小さな作りの花々だったが、盛りはとうに過ぎ、葉のみ目についた。しかし所々残る咲き遅れた花が、風に吹かれひらひらと舞い落ちてゆく。▼「須磨明石窓より見えて住む庵のうしろにつづく葛城の峯」。西行と同行の暮らしをいとおしむかのような似雲の庵跡辺りからの展望は、なるほど当時は淡路の海まで見晴るかせたと思わせた。今はただ、ニュータウンの住宅群がおびただしく並ぶだけ。年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず。
 降りしきる 西行に花降りしきる(E)

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