政治家と言葉

2007.07.17
丹波春秋

 チンパンジーと人間の赤ん坊を同時に育てて観察した動物学者の実験によると、生まれてから2、3歳までは人間よりもチンパンジーの方がはるかに優れていたという。ところが、子どもが言葉を覚え始めると、たちまちに逆転し、チンパンジーを大きく引き離した。人間が人間たるゆえんの一つは、言葉にあると言える。▼「人間は考える葦である」という。しかし、人間が「考える葦」と言えるのも、「考える」という言葉を手にしているからだ。考えるという言葉がなければ、考えるということを言うことはできない。さらに、考えるときの基盤となるのが言葉だ。人は、言葉なしには何ひとつ考えることができない。言葉を操ることで、人は文化を築いてきた。▼そう考えると、言葉は冒しがたい価値を持っているのだが、昨今は、その価値に無神経な言葉遣いがめだち、言葉が空しくなっている。言葉を命とする政治の世界でも同様で、名言ならぬ迷言、暴言、放言、虚言を吐く政治家がめだつ。▼人間を人間たらしめている言葉なのに、その言葉が薄っぺらになり、信用できないというのは、愚かしくもみずから自分の根源を揺るがしているようなものだ。▼参議院選挙が始まった。候補者の公約の中身はもちろんだが、公約や訴えに言葉への畏敬があるかどうかも見抜きたい。(Y)

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