「中空構造」

2007.09.06
丹波春秋

 故・河合隼雄さんの追悼式で、哲学者の梅原猛氏が「日本人の伝統的な考え方の根底にある『中空構造』というものを着想されたのは、実に卓抜だった」と語った。春秋子には馴染みのない言葉だったが、「偲び草」に頂いた著書「対話する生と死」(だいわ文庫)を読み、その意味を知った。▼「日本神話では、唯一至高の神が世界を統合するのでなく、無為の神を中心に、それをめぐる多くの神々が微妙なバランスをとって共存する。歴代の天皇でも大体、それが貫かれていた時期には適切な統治がなされていた」というのが「中空」理論の要諦だ。▼これを個人の意思決定という面で見ると、日本人はパーティで「何をお飲みになりますか」と聞かれ、周りを見ながら同じものを注文して、欧米人から「自我や個性はないのか」といぶかしがられる。しかし、存在しないのではなく、そのありようが異なる。自分の意見を明確に打ち出して中心を侵すことを避け、あいまいな形で提示するのだ。▼「中心統合」型との優劣が比べられるわけではなく、一長一短ではあるが、「中空」型は危機に意思決定を即断しなくてはならない時には不都合。また重要な意思決定が行われたのに、参加成員が明確な責任を感じなかったりする、という。▼まさに、現世の状況を、あの世の河合さんから指摘された気がした。(E)

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