兵庫医大篠山病院 「5年以内」撤退示唆

2008.02.12
丹波の地域医療特集

 兵庫医科大学篠山病院の存続問題にかかる同医大、 篠山市、 県との三者協議が5日、 同医大 (西宮市) で開かれ、 医大から 「5年以内に他の医療機関に移譲」 または 「病院建設費などへの補助金の上積み」 という2つの案が示された。 昨年10月に作成された10年間の運営にかかる基本協定書案は、 事実上棚上げされた。 酒井隆明市長は 「これまでの協議と全く別の案が出されたのは、 誠に残念で遺憾。 今後も粘り強く交渉し、 広い観点から考えたい」 としている。
  「5年以内に他の医療機関に移譲」 というA案は、 「撤退」 の方向を意味し、 「病院建設費などへの補助を基本協定書案以上に国、 県、 市で上積みする」 というB案は 「存続」 の方向を探るものという。
 早期撤退が具体的に示されたのは初めて。 これまでの協議を覆す提案に至った理由について、 医大は、 「医師不足により篠山病院への医師派遣が困難で、 教授会など内部の理解が得られない」 と述べたという。
 A案について、 医大は具体的な移譲先となる医療機関名を明らかにしていない。 移譲の場合も 「年1億8000万円」 という運営補助金はそのままとした。 病院建設補助金については触れなかったという。
 B案も、 具体的な上積み額は示されなかったが、 「相当な額」 である感触だったという。 これまでの協議では、 病院建設などに市は、 1、 2期工事合わせて計15億円を補助することになっていた。 医大は病院建設と医療機器購入について、 医大の負担をゼロにし、 国、 県、 市で負担することを望んでいるという。
 酒井市長は 「具体的な医療機関名が示されていないのに、A案は検討のしようがない。 当面はB案の方向で考えるが、 増額は限界。 1、 2期工事を同時に行って、 建設費用を下げられないかなどを検討したい。 国立病院から移譲を受けた地域医療への責任、 医大としての使命を果たしたいという理事長の言葉を信じて交渉を続けたい」 と望みをつないでいる。
 5日の協議は、 市からは酒井市長、 副市長、 担当部局ら4人が出席。 医大側はこれまで2人の理事が出席していたが、 今回から経営企画室次長、 教授3人が新たに加わった。 このメンバーで今後の交渉を担当するという。 県は健康局長ら2人が出席した。
 三者協議はこの日が14回目。 次回は20日午後2時から同医大で開かれ、 医大からの提案に対する市の検討状況を伝えるという。

(解説)案の捉え方に温度差

 今回、 医大が協定案の見直しを求めたのは、 医師派遣に携わる 「教授会」 の意向が強い。 市と医大、 県との三者協議は06年5月に始まっているが、 教授陣に協定案の詳細や国からの移譲後の経緯、 篠山病院への投資などについて詳しい説明がされたのは昨年12月だった。 教授会で意見を聞いたところ、 「10年間の医師派遣の約束は困難」 との意見が多く出たという。
 医大側の交渉担当はこれまで2人の理事だった。 一方、 篠山市側は直接決定権をもつ市長、 副市長、 政策部担当者らが交渉のテーブルについていた。 数十回に及ぶ非公式協議と、 14回の三者協議を経て協定書案がまとまったが、 「事務局レベルの案」 と捉えていた医大と、 「決定に近い案」 と考えていた市との認識の差が、 今回の変更に表れたとみられる。
 医大としての意思決定は常務会、 評議員会、 理事会など複数の段階を経ていく。 医大理事長、 篠山病院病院長らは 「篠山に残って地域医療に貢献したい」 との意向を示しているという。 「交渉相手は反対者ばかりではない」。 市が望みをつなぐよりどころだ。
 医大は、 医師不足を理由に撤退を言いながら、 一方で補助金の増額があれば、 存続を探るという。 協定書案を受け入れられないとした理由は、 医師不足なのか、 経営の問題なのか。 いずれかなのか、 両方なのか。 今後の交渉で明らかになってくる焦点だろう。 (徳舛 純)

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