本社の駐車場にバラが咲いているのを見て、北原白秋の詩を思い出した。「薔薇ノ木ニ 薔薇ノ花サク。ナニゴトノ不思議ナケレド」。バラの木にバラが咲くのは当たり前。でも、本当にそう言い切れるのかと、言外ににおわせているような詩だ。▼バラが咲く。そこにはバラ自身の生命力が働いているのはもちろんだが、太陽や雨、土など周りの環境が整っていなければ咲くことはない。バラの花一輪に宇宙のあらゆるものが作用しており、宇宙が凝縮している。そう考えると、バラが咲くのは感動的なことであり、一輪のバラも気高い生命だと思える。▼国語教育に大きな足跡を残した市島町出身の芦田恵之助にも、バラをよんだ「バラ二本」という詩がある。「一本は花大にして一本は小。大 大を誇らず、小 小なるを恥じず。力の限り咲けるがうるわし」。▼芦田は、俗に言う劣等児も高く評価した。「人は、劣等児の優等児に及ばないことのみ知って、優等児の劣等児に及ばないことを知らない」と、子どもに優劣をつけることを厳に戒めた。▼十の天分を持つ子が十の作文を書き、六の天分の子が六の作文を書く。「それぞれに天分のすべてを尽くしたのだから、それ以上、何を要求するか」とも説いた。ここには、どのバラもすべて気高い生命だと見る思想がある。(Y)