舛添大臣 「自発的な成功」視察

2008.07.07
丹波の地域医療特集

 舛添要一厚生労働大臣が3日、 県立柏原病院 (酒井國安院長) を視察した。 医師の負担を軽減するため 「コンビニ受診を控えよう」 と呼びかけている 「県立柏原病院の小児科を守る会」 (丹生裕子代表) と懇談したほか、 丹波新聞社の足立智和記者が、 同病院の機能低下が丹波医療圏域に与えている影響について説明。 舛添大臣は 「おかみのおしつけの運動ではなく、 自発的なものであることが成功のカギだ。 厚労省としてできることはやる。 国民も努力しなければならない」 と、 「守る会」 をモデルにした意識変革の広がりに期待感を示した。
 酒井院長が、 同病院の概要について説明。 2002年に45人いた医師が19人に激減したことで診療科の休診が相次ぎ、 さらには医業収益、 病床数ともに下降。 救急や外来を制限せざるをえない状況を述べた。
 足立記者は、 「守る会」 のほか、 丹波市内の開業医らでつくる 「医療再生ネットワーク」 の活動などを紹介しつつも、 「丹波地域からすでに病院1つ分の医師が去っている。 近くにある柏原赤十字病院も、 ともに機能低下し、 何も策がないままに立ち枯れている。 医療崩壊の足音はすぐそこまで迫っている」 と警鐘を鳴らした。
 舛添大臣は、 ▽偏在ではなく、 絶対的に不足しているという立場での医師増員▽地域ネットワークの構築▽コンビニ受診を控えるなど、 患者である国民が意識を変える―の3つを提案し、 「これらを基に医療施策を構造的、 抜本的に改革しなくてはならない」 とした。
 また、 記者会見で舛添大臣は、 「市民の自発的な取り組みとして、 ここまでできるんだということを見に来た」 と今回の視察の目的を説明しつつ、 守る会が作成したチャート式パンフ 「病院に行く、 その前に」 の出来栄えを改めて絶賛。 「お母さんが作ったことに説得力があり、 すでにあらゆる機会を利用して各地で紹介している。 刷り増しなどを国が支援できないか考えている」 と述べた。
 さらに医師不足の抜本的解決について触れ、 「特に若い医師に対して、 使命感や達成感、 希望を植えつけられる教育、 体制があるかということにかかっている。 その意味で、 守る会のような活動は、 医師の大きな力になっているはず」 との見解を示した。
 舛添大臣は、 6月3日、 厚生労働省で開かれたメスキュード医療安全基金の贈呈式で、 丹生代表らに、 来丹の意向を示していた。 また、 激励の電子メールを送ったり、 国会答弁で活動を紹介するなど、 同会に注目していた。
 県立柏原病院の小児科を守る会・丹生裕子代表の話  「大臣が、 丹波を心にとめていただいていたことは丹波市民の誇りであり、 励みにもなる。 大臣には私たちの活動をいろんなところで紹介いただき、 その地域が行動を起こし、 全国へと広がっていけばうれしい」
 県立柏原病院・酒井國安院長の話  「現場の医師の声も聞いていただいた。 医師、 住民が率直に意見を出し、 それをまっすぐに受けとめて答えていただいた。 大臣の視察が医療再生に向けてプラスになれば」

大臣に伝えた壊滅危機

 厚生労働省から、 舛添大臣に説明する機会をもらった。 大臣は、 「県立柏原病院の小児科を守る会」 の活動について精通している。 改めて言うこともないので、 「守る会の成功」 の影に隠れ、 深刻の度合いを増す丹波の医療事情と、 それを再生させる物語に絞って話をした。
  「守る会」 がなし遂げたことは、 全国初の 「小児医療の再生ストーリー」 である。 しかし、 この再生は、 小児科単科にもたらされたものである。
 県立柏原は43人が19人に、 柏原赤十字は15人が5人 (歯科は除く) になり、 脳神経外科、 整形外科といった、 この地に必要な診療科の休診を招いた。 私は問い掛けた。 「大臣、 このまま進んで行くと、 この地域の医療はどうなると思われますか?」。
 丹波の真の医療再生の物語は、 「守る会」 で終わりでなく、 崩壊した2次医療の再生にあると説明した。 現実にできる素地が、 この地にはそろっていると言った。
 柏原赤十字の5人は全員内科医で、 県立柏原で最も充足が望まれるのは内科であることを伝え、 他地域から医師を連れて来る前に、 丹波に残された乏しいながらも貴重な資源を集め、 より多くの患者を救う 「地域内の最適化をはかりたい」 と訴えた。
 大臣は、 「なぜ、 これまでそういう話にならなかったのか」 と、 疑問を呈した。 その質問は、 私ではなく、 兵庫県知事にして日本赤十字社兵庫県支部長の井戸敏三氏に向けられるべきものだ。
 大臣は、 「足立さんは、 もし統合したら、 どこが経営するのがいいと思う」 と聞いてきた。 「県立に統合するのがいいとは思っていない。 県でも、 赤十字でも、 それ以外でもいい。 経営能力がある所がすればいい。 住民の関心は、 経営主体にない。 安心してかかれる病院がほしいだけだ」。 ここで私の持ち時間はなくなった。
 住民は、 医療を大切にする地域づくりというパズルの1ピースをはめた。 医療者も、 患者のために医療を提供するだけでなく、 この地の医療が崩壊寸前であるとの警報を出し、 パズルをうめた。 井戸氏は、 自身が持つピースが、 パズルを完成させる最後の一枚と気づいているだろうか。
 県も赤十字も、 組織を守るために一時しのぎの対策弥縫策を繰り返してきた。 これが何をもたらしたかは、 昨年から今年の医療の衰退に明らかだ。 「問題を先送りすれば、 必ず今より医師が減る。 『県と赤十字、 行政の不作為』 が、 医療を壊滅させる」。 大臣に伝えたところでどうなる問題ではないが、 とてつもない危機に直面しているという事実を、 丹波の母親たちを大切に考えくてれている大臣に知らせたかった。(足立智和)

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