「閾(しきい)値」。聞きなれない言葉だが、元来は生理学や物理学で使われ、「そこを超えると状況が一変してしまう境目」というような意味らしい。▼地球温暖化問題でも近年、閾値の研究が進んでいる。現在すでに生態系の様々な面で変化が起きているが、これがあとX度上がると、例えばグリーンランドの氷床の崩壊が急速に進む、さらにはシベリアの永久凍土が溶けてメタンガスが発生する可能性がある。▼そこまで行くと、今までとは比較にならないほど温暖化が加速し、もはやどうにも止まらなくなる。その境界が閾値というわけだ。その時期は50年、100年先などという悠長なものでは決してなく、何も手を打たなかったら10年後にも、と警告する学者もいる。だからこそ今のうちに思い切った削減策を実行する必要性が指摘されている。▼しかしながら、日本ではまだまだ意識が鈍く、京都議定書の基準年の8%減に過ぎない政府の年新中期目標(2020年)について、「05年比15%減」とする化粧に目をくらませられている人が少なくない。▼環境対策のために経済が圧迫されるのはしのびないという意見も根強い。しかしすぐそこに「閾値」が忍び寄っているかもしれないことを考えると、目先の利益だけにとらわれていてはいけないのではないか。(E)