“幻の名茶”の原木を訪ねて

2012.08.11
丹波春秋

 中国福建省の武夷山に幻の名茶「大紅袍(だいこうほう)」の樹齢400年の原木を訪ねた。世界遺産の奇岩切り立つ山峡を、金木犀や沈丁花の香気を感じながら数時間。急勾配の長い石段を一気に登った先のやや開けた所から、岩肌にへばりつくように4本の濃緑の木々が垣間見えた。▼摘むのは6年前から禁じられているが、日本で言えば人間国宝の茶師、劉宝順さんが、温湿度や日照、水はけなど条件の整った谷間の茶畑に挿し木をし、見事に蘇らせた。▼大紅袍など岩茶(がんちゃ)は岩に根を張って成長する。深山の岩の養分が周囲の植物と呼応し合って岩韵(がんいん)と言われる独特の味と香りを醸し出す。血行を良くするなど様々な効果が古くから認められ、仙薬として歴代の皇帝に献上された。▼国外不出だったこの茶に魅せられ25年前、東京に「岩茶房」を開いた左能典代(さの・ふみよ)さんが、以来毎夏、客らを連れてツアーに出かけ、延べ1千人が日中交流の機会を得た。筆者も今回、篠山の姉妹店「丹波ことり」の柴田咲美さんの誘いで参加。▼劉さんの研究所で味わった岩茶は身体をふわーっと浮かし、「茶に酔う」感覚を初めて知った。250メートルの一枚岩「天游峰」を真直線に登り、へとへとになった身体をほぐしてくれたのも、やはり岩茶だった。(E)

 

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