個の確立

2015.01.10
丹波春秋

 作家で精神科医でもある加賀乙彦氏はフランスの精神病院で勤務していたとき、統合失調症の患者の訴えに驚いたという。「他人と顔や心が同じになった」「自分の独自性がなくなった」。患者たちはそう訴えた。▼日本の患者は「私はみんなと違ってしまった。そのため嫌われ、悪口を言われる」と訴える。フランスでは人との違いがなくなることに悩むが、日本では人と違ってしまうことが苦悩の原因となる。だから、みんなと同じ行動をとりたがる。成人の日に見られる光景もそのためか。▼同じような振袖を着て、カメラを向けられるとピースサイン。「人と同じような身なり、人と同じような写真のうつり方」。その様子にうんざりするという作家の曽野綾子氏は、「仮にも一人前の大人の仲間入りをするという日に何も個性を発揮していない」と嘆く。▼成人式は、一個の自立した人間としての覚悟を求める「通過儀礼」としての意味合いは薄れ、学校時代の友達との再会を楽しむ機会になっている。それならば華やかな身なりをして、無邪気にはしゃぐのもよく、目くじらを立てなくてもいいのかもしれない。▼ただ、これからは一人ひとりがそれぞれの道を自分の足で歩まねばならない。個の確立が求められる。その自覚は持っていてほしい。老婆心ながら、そう願う。(Y)

 

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