20年ぶりにあの街へ

2015.04.16
未―コラム記者ノート

 とある街へ出掛けた。阪急西宮北口駅を下車し、駅から徒歩約15分。ここは私が昔暮らしていた街。20年前の1月17日まで―。
 当時、築約30年のアパートで暮らし、サラリーマン生活を送っていた。そこへあの大地震が発生。あっという間に家は倒壊し、枕元そばのファンヒーターに梁が直撃した。空手チョップをくらったかのようにM字に変形したが、わずかにできたすき間のおかげで、私は命拾いした。
 若い私を心配してか、毎日声を掛けてくれた隣のおばあさんが生き埋めになり亡くなった。道にはたくさんの遺体が並んだ。そんな記憶が残る街に長い間、足が向かなかった。
 再開発によりすっかり様変わりした街並み。当時の番地を入力したスマホの地図アプリを頼りに閑静な住宅街をさまよい歩いた。行き着いた場所には「西田」の表札が掛かるおしゃれな家が建っていた。
 諦めずに当時の面影を探した。「ああこれだ」。ようやく見つけた小さな畑。涙ぐみながらその場に立ち尽くす私のそばを、何人もの住民が怪訝な表情で通り過ぎて行った。(太治庄三)

 

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