利他の心

2015.07.25
丹波春秋

 「子が親を殺す、親が子を殺すという事件は、欧米では日常的すぎてニュースにもならない」と、ドイツ出身の僧侶、ネルケ無方(むほう)氏が書いている(『日本人に宗教は要らない』)。無方氏によると、欧米では親子の間に憎しみの感情が存在しており、憎しみが渦巻く家庭では、家のどこかに銃があると、どちらかが引き金を引くことは十分にあり得るのだという。▼何ともショッキングな話だ。弊紙前号の特集「戦後70年」で92歳の女性が、親子殺人が当たり前になった現代の日本を嘆いておられた。同感だが、日本ではまだ親子殺人はニュースになる。そう思うと、いささかだが救われる。▼親が子を思う気持ち、とりわけ母親には利他の心がある。欧米の事情は知らないが、少なくとも我が国は基本的にそうだろうし、そうであったろう。子どもを愛するのは、子どもからのお返しを求めてではなく、子どもの幸せを願い、利他の心で母親は我が子を包み込む。▼「戦後70年」の特集で、野戦病院で息を引き取った戦友たちは最期に「お母さん」とつぶやいたとあった。母親の利他の心がありがたく、骨身にしみていたからだろう。▼しかし欧米ほどでないにしろ、親子殺人が珍しくない現代。それは子に寄せる親の利他の心が揺らいできたからではないか。(Y)

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