戦争の記憶

2015.07.04
丹波春秋

 詩人の石垣りんに「弔詞」という詩がある。14歳から銀行の事務職として働きながら詩を書き続けたりんが、職場新聞に掲載された105人の戦没者名簿に寄せた詩だ。▼りんは、「ああ あなたでしたね。あなたも死んだのでしたね」と、名前の載った職場仲間の戦没者に呼びかける。これは、戦前に就職したりんだからこそ、できたこと。「戦争が終わって二十年。もうここに並んだ死者たちのことを、覚えている人も職場に少ない」。戦後からわずか20年で、職場の環境は変わった。▼「死者は静かに立ちあがる。さみしい笑顔で この紙面から立ち去ろうとしている。忘却の方へ発(た)とうとしている」。同じ職場にいた人ながら知る人が少なくなり、忘却のかなたへと姿を消しつつある。▼りんは戦没者に再び呼びかける。「みんな、ここへ戻って下さい。どのようにして戦争にまきこまれ、どのようにして死なねばならなかったのか。語って下さい」。しかし、その願いはむなしい。亡くなった人がよみがえり、肉声を発することはない。▼だからこそ、せめて今も健在の戦争体験者の肉声に耳を傾けたい。弊紙で連載を始めた「戦後70年―丹波人の証言」の狙いもそこにある。りんは、こうも書いた。「戦争の記憶が遠ざかるとき、戦争がまた私たちに近づく」。(Y)

 

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