星野富弘展

2016.10.01
丹波春秋

 洋画家の入江観氏が、師として仰いだ近代画壇の重鎮、中川一政氏にあるとき、「手をけがしたので絵が描けない」と話した。すると、中川氏は「君は手で絵を描くのか」と応じたという。▼では、何で絵を描くのか。星野富弘氏は「美しさに感動する心があれば、私にも絵が描けるのではないかと思った」と書いている。ご存知の通り、中学校教諭時代の事故で手足の自由を失った星野氏は、口に筆を加えて絵を描いている。▼絵を描く上で技術はもちろん大切だし、才能もあるのに越したことはない。しかし、技術や才能よりももっと大切で、根源的なものがある。星野氏にとってのそれは、「美しさに感動する心」であり、その心が絵を描かせている。これは何も絵に限った話ではなかろう。▼星野氏は、事故で入院中、見舞いでいただいたランの花を描いた。制作中に星野氏は「希望」を見たという。「とおく、かすかに見えていた光が、花のかたちになって、わたしの目の前にひろがろうとしている」。星野氏は、花を描くことで希望の光を見出した。▼今、丹波市立植野記念美術館で星野氏の作品展が開かれている。美しさに感動する心に揺り動かされて描き、描くことで希望をつかみとったという星野氏の絵。その絵は、見る者にも感動と希望を与えずにはおかない。(Y)

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