政界と言葉

2017.10.07
丹波春秋

 財界から政界に転じた人がしみじみ言った。「財界では一度でも嘘をついたら、おしまい。政界では毎日、嘘をついていなければ身がもたない」。37年前に亡くなった評論家の伊藤肇の著書に紹介にされている話。ずいぶん前の言葉だが、悲しいかな、今も的を射ていよう。

 政界は、常人の住む地平とはかけ離れた特殊な世界に映る。嘘をつくことは常識という世界で鍛えられると、特異な能力が身につくに違いない。詭弁の話術もその一つだ。

 イギリスの元首相、チャーチルはその才に秀でていた。「政治家に必要な才能は?」と聞かれ、こう答えている。「政治家は明日なにが起こるか予見する才能がなければならない。そして、それがなぜ起きなかったか、うまく説明する才能がなければならない」。

 チャーチルは雄弁で鳴らした政治家。雄弁の才能があれば世界を支配できるとまで考えていたそうで、雄弁術を磨くため人知れず努力した。その挙句、言葉をあやつって人を言いくるめることに抵抗感をなくしたのだろうか。

 嘘をつけばおしまいの経済界に身を置いた本田宗一郎の言葉。「人間が理屈をつける気になると、相当に無理なことも合理づけができるものだ。だから私は言葉や文字を信用できない」。これぐらいの警戒感を持って衆院選の公示を迎えたい。(Y)

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