「太陽のせい」

2018.07.29
丹波春秋未―コラム

 学生時代に読み、「それは太陽のせいだ」という一文だけが記憶に残ったフランス人作家、カミュの代表作『異邦人』を読み直した。主人公は母親が死んだ翌日に海水浴に行き、女性と関係を結ぶ。その後、友人のトラブルに巻き込まれ、人をピストルで殺害する。逮捕された主人公は裁判で殺害の動機を問われ、「太陽のせいだ」と答える。

 小説では「陽の光で頬が焼けるようだった」「太陽の光はほとんど垂直に砂の上に降り注ぎ」など、太陽の容赦ない光が描写されている。今まさにそんな「太陽のせい」で、子どもたちの夏休みが変わろうとしている。

 元丹波の森公苑長の中瀬勲氏が講演で、ニュージーランドを訪ねた時の体験を語られたことがある。小学校の先生が会議で、夏休みには子どもを日陰で遊ばせようと話し合っていたという。オゾン層の破壊で有害な紫外線が降り注いでいるというのが理由だった。講演は16年前のこと。

 夏休みの過ごし方が変わる。講演を聞いた時は人ごとのように思っていたが、丹波でも現実となった。尋常でない猛暑に夏休みにつきものの地区水泳を中止にする小学校などが出てきた。

 今後、夏の気温はますます高くなるという。『異邦人』の主人公の名はムルソー。「死」と「太陽」との合成語らしい。何とも意味深長だ。(Y)

関連記事