精神分析学者のフロイトが将来、人口は減少すると予見していたことを、最近読んだフロイトの小論で知った。「文化が発展していくと、人類が消滅する危険性があります。…文化を発展させた人々は子どもを産まなくなってきています」。90年近く前にそう書いた。
人はむき出しの欲望のまま行動することはなくなるという見地からの予見ではあったが、文化の発展と人口減少は少なからず関連性がある。文化が発展し、経済的にも豊かになり、個人の自由度が増してくると、結婚するか、子どもを産むかも選択の問題になってくる。
精神科医の斎藤環氏が指摘するように、「個人を尊重する文化が発展するほど、個人の行動には選択肢が増えてくる」というわけ。その帰結の一つが人口減少だった。
文化の発展から人口減少がもたらされ、地方の活力は低下し、存続さえ危ぶまれる事態にまで立ち入った。何とも悩ましいことだ。
ただフロイトは文化の発展に未来への希望を寄せていた。文化が発展すれば知性が高まり、攻撃本能をコントロールできるようになる。「文化の発展を促せば、戦争の終焉に向けて歩み出すことができる」と言い切った。国際的な緊張が解けない状況は昔も今も変わらないが、人口減少の予見と共にこの予見も的中することを祈りたい。(Y)