新型コロナウイルスの感染者が全国で再び増加し、東京都では200人を超える日も見られるようになった。この状況に、子どもが東京で暮らす地方の家族は神経をすり減らせている。ある母親は、「やっと緊急事態宣言も解除されたのに、毎日、子どもが感染していたらどうしようかと気が気でない」と憔悴。一方で、「地元はまだ感染が少ない。もし感染した状態で帰省して拡大させたらと思うと怖く、『帰ってこい』とは言えない」と頭を抱える。子らの安否を確認する連絡を取り続けては、「無事」の返事に胸をなでおろす日々を送っている。
たまの電話「感染した、かと」
「東京で暮らしている人には申し訳ないけれど、子どもが”戦場”にいるような気持ち。インフルエンザなら看病に行ってやれるが、コロナは自分がウイルスを持ち帰る可能性もあって行けそうにない」。スマホを手にしたまま、兵庫県丹波篠山市で暮らす50代の女性・Aさんがつぶやく。
30代の息子は東京で起業している。最寄り駅は渋谷や新宿。首都のど真ん中だ。感染者数は23区の中でも抜きんでている。
連日、東京の感染者数が報道されるたび、Aさんは息子に、「大丈夫?」「マスクと消毒はちゃんとして」「電車に乗っても手すりは持たないように」とメッセージを送り続けている。
「普段はLINE(ライン)でやりとりしているから、たまに電話がかかってくると、『感染した』という報告ではないかと、ドキッとする」
先日、Aさんの義母、息子から見たら祖母が他界した。「ごめんやけど、葬儀には帰ってこなくていいから」と伝え、息子も「分かってる」と応じた。互いの状況を理解しているとはいえ、おばあちゃんを送り出させてやれない状況に歯がゆさを感じる。
一番に恐れるのは息子が感染すること。次は息子が帰省したときにウイルスを地域に持ち込むこと。
「もし、帰っているときに地域で感染者が出たら、うちじゃなかったとしても田舎のこと。『あそこは子どもが東京から帰ってきていた』と噂がすぐに広がる。結局は誤報だったが、私も実際、そういう噂を耳にしたことがある。そうなると私たち家族だけでなく、近くで暮らす親戚にも迷惑をかける。私たちもつらいし、子どももかわいそうだが、薬ができるまでは会えそうにない」
娘のバイト引き止め、仕送り厳しく
同じく、この春から東京の大学に通っている10代の娘を持つ50代の男性・Bさん。「通っているのは娘が第一志望にしていた学校。志望校に合格して喜んでいる娘に、『やめとけ』とは言えなかった」
せっかく入学した大学もスタートからオンライン授業。緊急事態宣言以降は自宅とスーパーマーケットを往復する生活で、友だちはほとんどできていないそう。自宅にこもってひたすらパソコンやスマホをいじっているようだ。
娘はアルバイトをするつもりでいたが、「コロナにかかったら大変」と、Bさんが引き止めた。
「家賃分くらいは働いてくれたらと思っていたけれど。今は生活費も含めて仕送りしているので、嫁さんのパート代を全部つぎこんでいます」と嘆息し、「ただ、まだ下に子どももいるので、いつまでも仕送りを続けるのは無理。早く収束してくれないと家計が持たない。なんとか卒業させてやりたいが、ずっとこの状況が続けば学費すら怪しくなる」と悩む。
「いつでも会える」が分断
一方の子どもたちは東京で何を思うのか。Aさんの息子が電話取材に応じてくれた。
「東京は第1波による自粛疲れと、それでも『乗り切った』ということから、今回も『自分は大丈夫』と根拠のない自信を持っている人が多いように思う。一方で、当然、『かかりたくない』という人もいるけれど、仕事はしないといけないから外に出ないといけない。異様な雰囲気です」
昨年、映像制作やイベント業で起業。人脈もでき、仕事が波に乗り始めた中で緊急事態宣言が出された。予定していた仕事がなくなり、収入が減ったため、一時、生活が危うくなったという。とりあえずカード払いで乗り切り、新しい仕事を始めてなんとかしのいだが、「今後は不安」と話す。
連日、感染者が増えている状況には、「一日仕事に出たら1000人くらいはすれ違っていると思うので、その中には感染者もいるはず。不幸中の幸いか、今のところ知り合いにかかっている人はいない。でも、知り合いの知り合いになるといる」という。
祖母の葬儀に出られなかったことは、「自分が一番おばあちゃん子だった。前に帰省したときにお見舞いに行こうかと思っていたけれど、忙しくて『またでいいか』と行かなかったのが悔しい。会えないまま葬式が終わって、いまだに実感がない」と言い、「『いつでも会える』と思っていたのが、コロナでそうではなくなった。同じ日本にいるのに、みんな分断されているよう。早く帰ってみんなに会いたいし、お墓参りにも行きたい」と話していた。