「備え」より「帰省しない」 田植えシーズン到来で感染症専門医に聞く 「同居か近くの人で作業を」

2021.05.02
地域

「備え」より「帰省しない」を選択してと呼び掛ける見坂医師=2021年4月29日午前11時29分、兵庫県丹波市内で

変異ウイルスが感染拡大を引き起こし、昨年と同じ緊急事態宣言下で到来した田植えシーズン。帰省者が労働力という家もある。日本感染症学会の専門医・指導医で兵庫県立丹波医療センターの見坂恒明・地域医療教育センター長(46)に、「田植え帰省」について話を聞いた。

―昨年は、「作業時はマスク・手袋着用」「休憩中対面で話さない」と注意点を聞いた。新たに気を付けることはあるか

1年前のウイルスと比べ、ざっくり言って1・5倍感染力が強い。同じ対策をしていてもうつりやすい。『去年は大丈夫だった』家庭が、今年も大丈夫だろうと言える状況にない。今年は帰省をしない、帰省する人を受け入れないことを勧める。同居、または近くに住んでいる人たちだけで作業を。

―「帰省した人と食卓を囲まない」「自宅と田んぼ以外に出掛けない」を徹底するが

マスクなしで人と人との距離が近づいたとき、食事でマスクを外したときに感染する。帰省した人だけ家族と離れて別に食事を取ることは現実的でないだろう。受け入れるための「備え」を考えるより、最初から「帰省をしない」選択をし、持ち込まれるのを防ぐのが一番だ。

―兵庫県丹波地域は県内で、人口10万人あたりの感染者数が同県但馬地域に次いで少ない安全な地域だ

その安全な但馬で、高齢者施設や小学校でクラスターが発生している。丹波は、過去の季節性インフルエンザの流行を見ても感染者が少なく、普段は「持ち込まれリスクが低い」地域だ。それでも感染者が増え、基礎疾患がない40代、50代で中等症になる人が出てきている。丹波医療センターのコロナ患者用ベッドは満床が続いている。神戸辺りの人が、ベッドがなく、豊岡市まで運ばれているのが兵庫の現状だ。

―確かに、新たな感染者がゼロの日は少ない

1年前、コロナを疑って受診した患者さんに聞くのは、「最近、大阪に出掛けませんでしたか」だった。丹波で感染者が増え、市内で感染することが珍しくなくなっている今、市外に出た、出ないは、もうあてにならない。丹波医療センターも警戒を一段引き上げた。発熱と、気道症状(咳、たん、鼻汁)の両方がある場合にコロナを疑って検査をしていたが、5月から発熱、気道症状のどちらか一方でも検査する。

―1年前と比べ、コロナのことは分かってきた

4月下旬に、3つ目の薬「オルミエント」が使えるようになった。もともとリウマチの薬で、免疫の暴走を抑える。人工呼吸器が必要になりそうな人に投与し、重症化を予防し、死亡率を減らそうというものだ。他には、ほぼ全例に抗ウイルス薬「ベクルリー」、軽症者に必ず投与する抗炎症薬「デカドロン」がある。1年たっても治療薬はないので、劇的な進歩とまではいかない。本人の治る力をサポートすることに変わりがない。

変異ウイルスが増えて以降、よく言われるように、1日、2日で急激に悪くなる患者さんがいる。悪くなると入院期間が長くなり、ベッドが空かず、次の患者さんを受け入れられず、県全体で入院待ちが多く出ている。ワクチン接種が進めば、もしかしたら、来年のゴールデンウイークは帰省できるかもしれない。私も県外の家族に会いに行きたいが、緊急事態宣言に照らし、帰らない。ここは、お互い辛抱する時だろう。

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