発達障がい児の散髪を長年手掛けている、「サカイヘアーサロン」(兵庫県丹波市山南町)の酒井泰成代表(45)がそのノウハウをつづった論文が、全国理容生活衛生同業組合連合会が主催する「2021年理容業界振興論文奨励賞」を受賞した。感覚過敏でバリカンやドライヤーの音が怖い、頭を触られることを拒む、多動でカット中にじっとしていられないといった子は、寝ている間に親が少しずつ髪を切るなど、当事者と家族は悩みを抱えている。酒井さんは、「論文が広く読まれ、業界で発達障がいへの理解が進むことを願っている」と話している。
27歳の時、近くの障がい者支援施設「みつみ学苑」から「髪を切ってほしい」と頼まれたのがきっかけ。同施設運営法人の障がい児支援専門施設「春日学園」にも出張するようになった。身近に発達障がいの子がおり、障がい理解の療育研修にたびたび足を運び、障害特性に応じて個別対応する必要性を学び、理容現場に応用した。
聴覚過敏の場合、親が子の障がいに気づかない幼少期に理容店でバリカンの音でパニックを起こし、恐怖心から店へ行けなくなったり、発達障がい児の接客をする理容師が、はさみでけがをさせたくない、短時間で終わらせてあげたい思いから使ったバリカンの音で、図らずも、恐怖心を植え付けてしまうといったことがあるという。
来店し、じっといすに座っているのが難しい子が多く、自宅や施設に出張することが多い。「最初の訪問で頭を触らせてもらえないことはよくある。こちらがどれだけその子をよく知り、準備できるか」と言い、足かけ3年16回訪問し、来店できるようになった子もあった。
屋外の赤青のサインポールを見ていると落ち着く子には、屋外にいすを持ち出しカットするなど、臨機応変に対応する。
3000字執筆した論文は、同業者へのノウハウ提供のほか、保護者の子どもへの接し方「ペアレントトレーニング」の重要性も説いている。「『どうして耳周りを切ってもらわなかったの』としかるのでなく、『前髪とえり足がすっきりして良かったね』と声を掛ける。できたことをほめる声掛けが大切。『もう少しで終わるから、最後まで切って』と親に頼まれることがあるけれど、深追いすると、次から触れなくなる。子だけではなく、親とのせめぎ合いもある」とも。
体が小さいうちは親が体を押さえつけてカットすることもある。成長するに連れ、子の力が強くなって手に負えなくなり、助けを求められることも。「なるべく幼いうちから関わる方が、店での散髪にスムーズに移行できる」と助言する。
酒井さんは、NPO法人そらいろプロジェクト京都が提唱する、障がいがある子のカットを手掛ける「スマイルカット」に参加している。
同連合会の会員は4万5000人。論文全文が、同連合会のウェブサイトで公開されている。