「元気に育ちますように」 鹿物語ある子安地蔵菩薩

2022.07.29
たんばの世間遺産地域

どもの成長を願い、願い事を書いた前かけが幾重にも掛けられている子安地蔵菩薩=兵庫県丹波篠山市住山で

当たり前にありすぎるけれど、住民が大切にしていきたいもの「世間遺産」―。丹波新聞では、兵庫県丹波地域の人や物、景色など、住民が思う”まちの世間遺産”を連載で紹介していきます。今回は丹波篠山市古市地区住山にある子安地蔵菩薩です。

「元気に育ちますように」―。子の成長を願う言葉を書いた、前かけが何枚も掛けられている丹波篠山市住山の正厄八幡神社内にある子安地蔵菩薩。住山地区で子どもが生まれると、前かけに願い事を書いて子安地蔵に掛ける風習が今も続いている。 この地蔵は、同地区に伝わる民話「鹿物語」に登場する。「丹波(篠山市・丹波市)のむかしばなし」(兵庫丹波の森協会発行)にも掲載。村に住む若者が母鹿を撃ったときに、子鹿が生まれた。若者は殺したことを悔やみ、子鹿の成長を願って母鹿の墓のそばに地蔵をたて、子鹿を丹念に育てた。その後、母鹿の墓に現れた父鹿に元気になった子鹿を引き渡した―という話。

子安地蔵が登場する「丹波のむかしばなし」の「鹿物語」。第2集の表紙となっている

住民たちは、変わることのない鹿の夫婦愛や、軽いと言われる鹿のお産にあやかり、母親が「鹿の子模様」の肌着をこしらえ嫁がせた。この慣習はすでに途絶えているようだが、子鹿が元気に育つ姿を見守っていた地蔵に、わが子の成長を祈る慣わしは続いている。

民話作者で、昨年99歳で亡くなった男性と、松本一等さんが神社総代をしていた2006年11月、地蔵があったとされる谷に記念碑を建てた。現・神社総代の杉原憲章さん(63)は「これからも集落の良い風習を残していければ」と話している。

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