米粉パン店開業 娘のアレルギー考え料理研究 夫はブラジル出身のかやぶき職人

2022.11.28
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自宅で米粉パンの店を開いたメンデスカワハラ・エリオシンイチさんと見尚子さん=兵庫県丹波市氷上町井中で

兵庫県丹波市氷上町井中に、生地に小麦粉を一切使わず、米粉で作るパンの店「グルテンフリーベーカリー369(ミロク)」がオープンした。切り盛りするのはブラジル出身のメンデスカワハラ・エリオシンイチさん(37、以下エリオ)、見尚子さん(36)夫婦。7年ほど前に大阪から丹波市春日町大路地区へ移住し、今年4月に井中へ引っ越した。見尚子さんは長女(11)の小麦アレルギーに悩まされ、長年、米粉料理を研究するうち、パン店開業に行き着いた。サポートするエリオさんは全国でも貴重な存在となっている、かやぶき職人。今後、農業と兼業し、手作りの米や野菜をパンのメニューに生かせないかと考えている。

■娘が喜んだパン

仕事柄、エリオさんは出張が多く留守がちだった。見尚子さんは、長女ら3人の子を育て、アレルギーとも向き合いながら家にいてできることはないかと考える中で、ふとパン店開業がひらめいた。米粉パンは、「誰より娘が喜んでくれたもの」でもあった。

生地には卵や乳製品も使わない。人気の食パンや黒ごまバケットをはじめ、ジャムパン、あんパン、たまごサンドなど6―7種類を提供。トースターで焼くと、表面がカリッと、中がふわふわになるので、お薦めの食べ方。インスタグラムで発信したところ、福知山や三田市などからも、同じようにアレルギーに悩む人らが買いに訪れている。

見尚子さんは、「米粉パンは硬いというイメージがあるのか、柔らかさに驚かれる人が多い。アレルギーのある人はぜひ一度食べてほしい」とPRし、「今後は地域の米や野菜も使って、地産地消の手助けになれば」と話している。

同店は井中公民館近く。営業は日、月、水、木曜の午前6時―午後2時。

■家族を思いフリーに

エリオさんは京都府美山町の会社に約5年勤め、かやぶきの技術を習得。今年8月から、丹波近隣で工事がある際に声を掛けてもらう、フリーランスの職人となった。

各地の神社仏閣を手掛ける職人は出張が多く、現場から現場へ“はしご”することも珍しくない。「出張が多いので、家のことで妻が大変。パン屋も手伝えるし、もともとやりたかった農業もできる」と、今の働き方を選んだ。

サンパウロ出身。15歳の時、家族4人で来日。滋賀、愛知を経て大阪で働いていた時に見尚子さんと出会い、結婚。「食」に関心があり、丹波に越してきた。

外国人でも安定して収入が得られるように何か技術を身に付けたいと調べていた時に、かやぶき職人のことを知った。美山町の会社に連絡を取ってみたところ、社員として採用された。

これまでに美山町のほか、東京、島根、岐阜、赤穂などの現場を経験。丹波市内では新井神社(柏原)や岩瀧寺(氷上)、旧朝倉家住宅(青垣)などを手掛けた。退社前は現場主任を務めるまでになったが、それまでは苦労の連続だったという。

日本の文化や言葉に慣れない上に、「見て覚えろ」の職人の世界。なぜ怒られているのか、なぜ指示がないのかも分からなかった。自分で頑張るしかないと気付いてからは、分からないことはしつこく尋ね、掃除やかや運びなどの仕事にも熱心に取り組んだことが認められ、2年目には屋根の上での仕事を任されるようになった。

現場主任になると、さらに予算立てや行政との交渉などの仕事が加わり、専門用語や、肩書のある人に失礼のないように話すといった日本独特のコミュニケーションにも戸惑ったという。

「かや葺きは地域によってふき方や形も違う。経験のある職人であれば対応できるが、そういう意味で私はまだ“引き出し”が少ない」とエリオさん。「ふき始める前のイメージと、完成した姿が同じだったときがうれしい。ただ『もう少し』と思う個所が残るときもあるので、それも経験ですね」と話している。

 

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