「能の種」まき文化に
能楽小鼓方としての顔はもちろん、能楽を主とする伝統芸能の振興を図るプロデューサー、地域にちなんだ新作能などを生み出す作家としても活躍する。丹波市に移住して約9年半、この地に“能の種”をまき続け、それぞれが成果を上げている。
和歌山県出身。父・悟さん、兄・慎也さんは太鼓方で、自身は舞いや謡いを担う「シテ方」の稽古を受けて育った。学業や部活動が忙しくなった中学生の時から、能とは距離を置いた。
高校は進学校へ。学業に嫌気がさしたころ、代わりに興味を抱いたのはバイクだった。ある日、父がぽつりともらした。「良いバイクを買ってやってもいいぞ」。続けて「その代わり、囃子方の稽古をしろ」―。
高校2年時、丹波篠山市の春日神社で毎年開かれる元朝能「翁」で、小鼓方としてデビュー。大倉流16世宗家の大倉源次郎さん(人間国宝)を師とし、海外を含む数々の舞台に上がった。
2013年、丹波市春日町で田楽ライブを開いたことを機に、翌年、丹波市に移住。「丹波能楽振興会」を立ち上げ、小中学校などへ出向いて能楽の普及に力を注いているほか、能楽グループ「新丹波猿楽座」を設立。また、コンサル業務などを行う「伝楽舎」を起業し、伝統芸能の振興を図るなど、精力的に活動している。
ここ数年は、地域の魅力を能に仕立てる新作能狂言作家として、「直正」「神池」「ちーたんと丹波竜」「光秀」など、丹波市にちなんだ新作の能や狂言を生み出している。
夢は能楽堂の建設という。「丹波の魅力を詰め込んだ能や狂言を世界に発信したい。能の種をまき、地域の人の手で育てていく文化にできれば」。49歳。