53年の教員生活に終止符
園部高校、篠山産業高校、兵庫高校、篠山鳳鳴高校の各教員、相愛大学教授、立命館大学教授を経て、この3月末、立命館大の非常勤講師を退き、計53年間の教員生活に終止符を打った。「国文学研究と教育がごちゃまぜになった経歴です。まだ余力があるので、授業をしてみたいという気はあります」とほほ笑んだ。
篠山鳳鳴高校の卒業生。入学したばかりの頃、書店で源氏鶏太の小説『大願成就』を買った。その時、店のおばあさんが「いい本を買うてんやね」と語りかけた。以来、意識的な本買いが病的なものになったという。高校時代に国語教諭から「本の海を泳いで、友人に出会う」という中国の故事も教わった。家を訪ねてきた友人を玄関で迎える際に、うず高く積まれた本の海を渡って玄関に出るという故事。「その話を聞いて、いいなと思った。そんな生活を夢想しました」
篠山鳳鳴高には、和漢書1万冊を収蔵した青山文庫があり、ひとり書庫に入って、変体仮名も読めるほどになるまで古典に溺れた。「この体験が私の研究の原点になりました。私は運動も理数も駄目な生徒だった。でも、日本語は読めたし、理解もできた。だから国文学に進みました。自分ができることを追い求めればいいんです」
平安文学を研究したいと立命館大に進み、大学時代から『浜松中納言物語』を研究。30有余年間の研究成果として、上下巻1500ページに及ぶ大著『浜松中納言物語全注釈』を出した。今は、上中下の3巻にわたる『寝覚物語』の全注釈を出す予定で準備を進めている。
人生を決めた小説『大願成就』。「まだ大願を成就する途上。そう思って自分を励ましています」と話す。75歳。