手話で育った男性主演 映画「ヒゲの校長」 ろう者の母の故郷で初上映

2023.04.22
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映画「ヒゲの校長」の1こま。右の男性が尾中友哉さん(写真提供=©聾宝手話映画)

兵庫県丹波市ゆかりの尾中友哉さん(33)=大阪市=が主演する、「手話の父」と呼ばれる高橋潔の生涯を描いた映画「ヒゲの校長」(2022年、谷進一監督)の上映が、「ヱビスシネマ。」(同市氷上町成松)で始まった。27日まで。丹波市は2016年に「手話言語条例」を施行するなど、手話を言語として認識しているが、聴覚障がい者の教育で手話が広く認められたのは、2000年前後。高橋は、大正期に排除されようとした手話を守った。

尾中さんの母、(旧姓古川)幸恵さん(59)=滋賀県=が丹波市青垣町出身。尾中さんは両親に聴覚障がいがあり、自身は耳が聞こえる子ども(CODA)。幼い頃から手話を第一言語として育った。現在は、NPO法人「Silent Voice」(大阪市)の代表理事。聴覚障がいがある人のキャリアを開く事業を立ち上げるなど、社会起業家として活躍している。

高橋の伝記映画を撮るにあたり、流ちょうな手話ができるキャストが必要になった。演技経験はなかったが、谷監督から主役での出演を打診され、引き受けた。

戦前、政府はろうの子どもに手話を禁止し、口の動きを読み取り、発語できるようにするアメリカから伝わった「口話法」を教えた。手話は口話法習得の妨げになると見なされた。大阪市立聾唖学校長だった高橋(1890―1958年)は、政府の方針に反対し、「一人ひとりに合った適性教育が必要」と主張。画一的に口話法を押し付けるのでなく、障がいの程度に応じて「口話法」「口話、指文字、手話の混合法」「手話と指文字」を使った。

映画は、高橋が同校に赴任する前から始まり、口話推進派とのあつれき、子どもたちとの触れ合い、口話推進派の尾張徳川家第十九代当主、徳川義親との対決などを描く。ほかの出演は、日永貴子さんら。河本準一さんらが特別出演。

尾中さんは「高橋が校長になったのは100年前。戦争があり、女性参政権もなく、国の通達に重みがあり、今と人権意識が大きく違っていた時代に、『手話が必要』と高橋は訴えた。自分自身、手話が必要と思うリアルな感情があり、高橋の心情と重なり合う演技を目指した」と話している。

午前10時、午後3時半の2回。23、24日に谷監督の舞台挨拶がある。

「鑑賞が楽しみ」 ろう学校出身の男性

「ヒゲの校長」主演の尾中友哉さんの親戚で、聴覚障がいがある丹波ろうあ協会事務局の古川重己さん(70)は、「神戸や大阪の上映会には行けなかった。丹波市で見られてうれしい」と、青垣の手話サークル「もみじ」の仲間と、25日に鑑賞する。

古川さんは、尾中さんの母、幸恵さんといとこ。休みのたびに帰省していた尾中さんと面識がある。両親の影響を受け、社会起業家としてろう者の社会参画を進める活動をしていることは知っており、「手話を広める映画に主演までするなんて、びっくり」と表情を崩す。

古川さんが小学校から高校まで過ごした神戸市のろう学校は、当時の全国のろう学校がそうだったように、学校で手話は教えず、手話禁止だった。授業は口話と板書。寄宿舎で、先輩や同級生、後輩と教え合って手話を身に付けた。「おにいさん」「おじいさん」など同じ口形の言葉があり、口話法だけで言葉を理解するのは難しく、「手話も使えたら、もっと理解できたことはたくさんあったと思う」と振り返る。社会に出てからも意思疎通の苦労には事欠かなかった。

「ろう者にとって、手話はコミュニケーションや表現の手段。ろう者の立場を広げてくれてうれしい」と喜び、多くの健常者にも鑑賞してもらえればと願っている。

 

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