蔵再生へ「幻の酒」 新ブランド「神池」を新発売 1人で醸造の鴨庄酒造「日本一小さな酒蔵」より小規模

2023.05.06
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蔵再生の第1弾として新発売する3種類の「神池」を手にする蔵元5代目荻野弘之さん。3種で4合瓶1200本と生産量極少の幻の酒=2023年4月24日午後4時2分、兵庫県丹波市市島町上牧で

全国的に有名な「小鼓」、勢いがある「奥丹波」の造り酒屋がある酒どころ、兵庫県丹波市丹波市市島町で、安価なパック酒用原酒を他社に販売する「桶売り」を主力事業にしていた鴨庄酒造(同町上牧)が、自社銘柄の日本酒、純米酒だけを醸す蔵として再生の緒についた。新ブランド「神池―mike」を立ち上げ、純米、純米吟醸、純米大吟醸の3商品をゴールデンウイークに新発売した。年間生産量は4合瓶換算でわずか5000本(20石)。「日本一小さな酒蔵」を自称する岐阜県の酒蔵の石高80石の4分の1。「信じてもらえないくらい小さな酒蔵」(5代目蔵元)が蔵の存続をかけ、勝負に出る。

同社は、大政奉還が行われた慶応3年(1867)創業。創業時からの銘柄「末廣」の流れをくむ「花鳥末廣」が代表銘柄。2004年から、同酒造がある鴨庄地区の地域おこしで始まったコシヒカリの酒「百人一酒」が加わり、近年は「百人一酒」の製造量が、「花鳥末廣」を上回る。2銘柄の石高は合わせても十数石。到底、事業が継続できる生産規模ではない。

蔵元5代目の荻野さんが「信じてもらえないくらい小さな酒蔵」と表現する鴨庄酒造

平成元年(1989)、4代目の荻野信人社長(86)が、米を蒸さず、酵素を使って液状にして仕込む「液化仕込み」システムを導入。発酵管理の重要な部分をコンピュータ制御する新しい醸造技術で、低コスト、省力化をはかった。薄利多売の桶売りに注力し、数年後に石高が7000石に達した。現在の西山酒造場(「小鼓」)と山名酒造(「奥丹波」)を足した石高の数倍。その傍らで「花鳥末廣」を細々と造っていたが、桶売りが中心の商売、小売店の取引先はほぼなくなった。

日本酒離れでパック酒が売れなくなった。2019年に社長の長男、5代目の弘之さん(56)が帰郷した時、石高は350石まで落ちていた。「えらい所に帰ってきた」と思っていた矢先に新型コロナ。翌年、桶売りの引き取り先がなくなり、2人の蔵人を雇えなくなった。

創業から「末廣」だったが、昭和33年に全国品評会で賞を受賞する際、福島県に同名酒があることが分かり「花鳥末廣」に改めた

このままでは潰れると、弘之さんが1人で杜氏兼蔵人として酒造りを始めた。「桶売りはしない。全量自社銘柄で、全て純米酒のうまい酒を造る」と決意。液化仕込みをやめ、米を蒸し、人の技術で醸す伝統的な造りに回帰した。

鳥取大学農学部を卒業後6、7年、家業を手伝った後、大学に入り直し車の整備士の資格を取り、東京近郊で働いた。醸造技術は22、23歳の時に講習会に参加したのと、帰郷した年に蔵人から教わったくらいでほぼ独学。酒類総合研究所(東広島市)に質問し、文献を読みふけった。まず、「花鳥末廣」をリニューアル。派手さはないが、こくがある、「昭和のしみじみうまい酒」を先祖伝来の銘柄で追求しながら、別ブランド「神池」を興した。

「これまでの蔵のイメージを覆す、香りが立ち、すっきり飲みやすく、味がある酒。手探りだったが、想像していたような酒になり、ほっとした」と弘之さん。

初めて使う酒米、酵母で仕込んだ「神池」純米(1600円)は、市島町産の酒米「HyogoSake85」を協会14号酵母で、純米吟醸(1700円)は県産兵庫北錦を55%まで精米し、同15号酵母で、純米大吟醸(2000円)は「Hyogo―」を50%精米し、同18号酵母で仕込んだ。3種とも加水なしの原酒。アルコール度数は16度。切れの良い中口。それぞれ4合瓶で300―600本しかない“幻の酒”だ。

経済産業省の事業再構築補助金の採択を受け、温度管理ができる発酵タンク、ステンレスのタンクと冷却システム、搾り機、瓶詰め機などを更新した。これまでの12―3月から、仕込みできる期間が前後1カ月以上伸び、生産量が増える。「石高倍増」が一つの目標。それでも日本一小さいことに変わりはない。

「微生物が造るので、飲んだ感じは同じでも、成分を分析すると、全く同じ物は2度造れないのが面白い。同じ米と酵母を使っても、水や発酵温度が違うので、同じ味にならない。知識も経験も足りないが、やりがいを感じる。手造りを大切に、毎年進化していきたい」。大きな瞳を輝かせた。

丹波市内の道の駅丹波おばあちゃんの里(春日町七日市)、ひかみや(柏原町母坪)、加納屋(丹波ゆめタウン内)で販売中。

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