オタマジャクシ大量発生 水路で一体何が? 正体は…減少傾向のあのカエル

2023.06.13
地域自然

水路を泳ぐ大量のオタマジャクシ=兵庫県丹波市市島町上垣で

兵庫県丹波市市島町上垣の稲継とみ子さん(82)の自宅前の水路に、無数のオタマジャクシが生息している。昨年から大量発生し始めたという。最も多かった時期は、「一面が気持ち悪いぐらい真っ黒になる」ほど。一体、何が起きているのか―。

5月中旬、稲継さんからの一報を受け、山裾にある家を訪ねた。水路は長さ約50メートル、幅約50センチ。無数のオタマジャクシがうようよと泳いでいた。ザリガニの死骸を食べる群れも見られた。稲継さんによると、それでも最も多かった時期と比べると「10分の1ほど」。ただ、カエルになった成体は一度も見たことがないそう。

残雪のある2月ごろ、直径10センチぐらいの黒い塊のような卵が水路に浮いてきた。3月上旬からふ化し始め、みるみる増えていったという。「友人とは、『これだけのオタマジャクシがカエルになったら、車が走れなくなるぐらい道路にあふれるかも』と言っていた」と笑う。

昨年に大量発生していたオタマジャクシは特に気に留めず、「知らん間におらんようになっていた」と言い、「夏場に水がなくなって死んでたんかな」と首をかしげる。

捕獲したオタマジャクシ。よく見ると、小さな足が生えている

後日、兵庫県立人と自然の博物館(三田市)の研究担当次長で、両生類に詳しい太田英利さんに現場を見てもらったところ、正体は「ニホンアカガエル」と判明した。

日本の固有種で、森林に隣接した低湿地などで繁殖する。繁殖期は2―3月の早春。5―6月にかけて変態する。産卵のために冬眠から一度起きて産卵を終えると、もう一度眠りにつくという珍しい習性を持つ。

水質汚染や、冬場の水田の環境変化などに伴い、個体数は減少傾向にある。兵庫県版レッドリストでは、準絶滅危惧に相当するCランクに指定されている。

稲継さんによると、約20年前、市島町内の下水道設備が整い、水路に生活排水が流れなくなって以来、山水と雨水のみがたまるようになった。

太田さんは「水がきれいで日光もよく当たるので、餌となる水草が豊富。周りには丘陵もあり、ニホンアカガエルのオタマジャクシがすむ上で理想的な環境」とみる。

稲継さんは「不気味だったので、何者か分かって安心した」と顔をほころばせた。

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