「防災士」に聞く備えと心構え 人の手借りる「つながり」を キャンプ用品の活用も

2024.01.27
地域注目

石川県能登半島地震の発生から、まもなく4週間になる。人々がゆっくりとした時間を過ごすはずの元日を襲った大災害は、多くの命を奪い、住み慣れた町を一変させた。いつ起こるか分からない災害に、どのように備えればいいのか。災害に関する知識や技能を身に付け、地域や企業などの防災リーダーとして期待される「防災士」の資格を持つ、兵庫県丹波市の田邊由紀子さん(55)と足立健さん(44)に、それぞれの視点で必要な備えや心構えを聞いた。

「物」にこだわらない

食器棚を使わないなど、災害に備えた生活を日頃から送っている田邊さん。机上は非常時持ち出しファイル=兵庫県丹波市氷上町石生で

田邊さん宅は、たんすがない。食器棚もない。倒れた家具でけがをしないため、阪神淡路大震災後に1つずつ処分した。「落ちてきても痛くない、壊れても惜しくないものしか置いていない」。「日常生活を奪われるのが災害。でも、災害は日常にある。物にこだわらないようにした方がいい」と考える。

高齢の父親、人との交流が苦手な娘がいる。東日本大震災で報道される避難所の様子を見て「娘が避難所に行くのは無理」と思い、防災を学べる所がないか市消防本部に問い合わせ、紹介された日本防災士機構の講座を受講。大震災があった3月に防災士の資格を取った。

2階建ての自宅をシェルターに見立て、あちこちのコンセントに常時、停電時に使う電灯を挿したままにしている。食料の備蓄はもちろん、発電機はないが、手動洗濯機、ソーラークッカー、カセットコンロなどさまざまな資機材を備えている。靴箱の空きスペースといったわずかな空間にも非常トイレ用凝固剤、使い捨ての樹脂製手袋、応急セットなどを置き、車には毛布、携帯用トイレを積んでいる。

非常用持ち出し袋は、中に何を入れたか忘れてしまうため、家族それぞれの名前を貼った透明の書類ファイルを作り、それに各自が日頃から大事な物を入れて保管。災害時は持ち出すようにしている。

日常生活からこれだけ備えていても、「実際、必要な物がその時すぐに使えない。やっぱり『防災=物』ではない。災害が起きたら、そんなもんじゃ済まない」と考えている。

災害が起こったときに、家族のことをどうしたらいいか分からない人が多い。「この子は避難所に行けないな、と心配はする。では、実際起こったらどうするの、そこまで考えるのが備え」と言う。

「自分で助かろうと思わない人は助けてもらえない。ここに私たちはいると、日頃から存在感をアピールする。日頃からいろんなつながりを、家族それぞれがつくっておき、人の手を借りられるようになっておくことが大事」と語った。

「マイライフライン」確保を

日常から災害に備える大切さを訴える足立さん=兵庫県丹波市柏原町柏原で

2014年の丹波市豪雨災害での消防団活動をきっかけに、防災士の資格を取得した足立さんが、キーワードにしているのは「マイライフライン」の確保。災害に備えた日常を大事にしており、「支援が入るまでの発災後3日間」をどう生き伸びるかにポイントを置いている。

備えの前提としているのは、発災後、ガスや水道、電気などがストップしても、自宅での生活が可能であるということ。仮に避難所に行く必要がある場合でも、持ち出しが可能であるかという視点で防災グッズをそろえている。

米や飲料水は、長期保存できるものをストック。定期的に賞味期限をチェックし、期限が近づけば消費して新しいものと入れ替えるローテーションをしている。その際、おいしいかどうかの確認もしており、水だけで食べられる「アルファ米」は五目ご飯やわかめご飯など、複数の味が入っているものを準備している。「年1回でも、保存食を食べる日をつくるといい」

枕元には破片などが散らばっているときに役立つスリッパを用意。家の中には家屋内に閉じ込められた際に使えるホイッスルのほか、モバイルバッテリー、懐中電灯、水がなくても使える簡易トイレ、ブルーシート、アルミのブランケットなどを常備している。

キャンプが趣味の足立さん。キャンプ用品には災害時にも活躍するグッズが豊富にあると言い、カセットコンロやボンベ、固形燃料、食材を炒めたり煮込んだりできる飯盒、20リットルの水が入るポリタンクなどを用意。「キャンプ用品を充実させれば、災害にも対応できる」

これらは災害時に、足立家で必要と思うものを取りそろえており、「必要なものは家族構成やペットの有無などで異なる」とする。

「家族防災会議」の重要性も訴える。被災時は学校や職場など、家族がそれぞれの場所にいることも考えられるため、発災時の避難場所など、「あらかじめ家族間で話し合っていてほしい」と訴える。

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