被災地能登の姿を世界に発信 スリランカ出身の報道写真家 「つらい気持ちになった」

2024.01.22
地域注目

国道249号が寸断されて孤立集落となり、歩いて山を越えて救援物資を避難所まで運ぶ輪島市大野町の被災者たち(1月4日、Buddhika Weerasinghe/Getty Images News/ゲッティイメージズ)

兵庫県丹波市の小学校で多文化共生サポーターをしている報道写真家、ブディカ・ウィーラシンハさん(55)=同県丹波篠山市、スリランカ出身=が、石川県能登半島地震の発災直後の1月2―6日に被災地で撮影した、地震で破壊された町や、非日常を生きる被災者の様子が、イギリスのBBC、アメリカのワシントン・ポストなど、海外の主要メディアで使われ、世界に惨状を知らしめた。母国で紛争の取材経験がある。「地震がこんなにも町を壊してしまうなんて。戦争の記憶がよみがえり、つらい気持ちになった」と言い、「困難な中で助け合い、暮らす被災者の生活を世界に伝えるため、再訪したい」と思いを強くしている。

滋賀県竜王町で撮影中に地震が発生。揺れに気付かなかった。「川の近くに行かないで」と街頭スピーカーが叫んでいた。

午後5時半ごろ、アメリカに本社がある写真画像代理店のバンコクオフィスから撮影要請があり、カメラや食料、寝袋など自己完結できる資材を取りにいったん丹波篠山市の自宅に戻り、輪島市を目指し北上。福井県敦賀市内の北陸道パーキングに自衛隊、消防、警察などが集結していた。北陸道加賀インターで一般道に降り、金沢市経由で七尾市に午前5時到着。北上しながら1階部分が押しつぶされた民家などを撮影、七尾市の北、穴水町でビニールハウスで避難生活を送る被災者を捉えた。

先に進みたかったが、穴水町から北は道路の傷みが一段と激しかった。異なる2社の通信回線、スマートフォンのいずれもが、交信不能。カーナビも機能しなくなった。

撮影した写真を示しながら現地のようすを語るブディカさん=兵庫県丹波篠山市で

現場で出会った外国人報道写真家は「通信環境の厳しさは東日本大震災以上」と話していた。

ネットで写真を送るため、富山市まで戻り、翌日から金沢市を拠点に。輪島―金沢は片道7、8時間かかる日もあり、撮影時間が限られる中、3日までは地震が破壊した建物を中心に、4日からは被災者の暮らしに焦点を当てて撮影した。

2日はほぼ車が走っていなかった。3日は半島北部から南部へ荷物を積み、避難する車と多くすれ違った。どの道が通行可能か分からず、先行する車の後ろを付いて走った。輪島市中心部に午前10時半ごろ到着。神戸ナンバーを見つけた被災者が、「阪神・淡路大震災の際、ボランティアに行った」と話しかけてきた。

午前11時過ぎ、横倒しになった漆器会社の7階建てビルの内部を捜索する大阪市消防局の隊員を撮影中、余震で建物が大きく揺れた。建物から慌てて飛び出す隊員を写した。危険と隣合わせで、懸命に救助、捜索活動が行われていた。

焼け野原になった朝市通りは、所々まだくすぶっており、煙が見えた。「スリランカの内戦で、自爆テロが起こった場所のようだった」。消防の捜索を見つめる家族の姿があった。

4日も輪島市で活動。被災者の撮影は、声をかけ、許可を取ってカメラを向けた。顔が写らない方がいいだろうと、避難のため、自宅から荷物を取り出そうする高齢女性は背後から、炊き出しは、汁物から立ち登る湯気が被災者の顔を隠す瞬間を狙った。

輪島市から珠洲市へ海沿いに東西に伸びる国道249号で、灯油や水、トイレットペーパーなどを抱え、歩いて山を越える人たちと出会った。輪島市中心部から東へ5キロほどの大野町の被災者たちだった。

外部とつながる唯一の道路の同国道が土砂崩れで寸断され、孤立。歩いて山を越えて海沿いを歩き、自衛隊に救援物資をもらった帰りだった。小学校と保育所に約300人が避難しており、両手に持てるだけの荷物を持っていた。「撮影に来てください」と頼まれた。「難しい生活の場所を世界に伝えたい」衝動に駆られたが、迫る日没に断念した。

撮影中、被災者に声をかけられた。「記者でない、カメラマン、まして外国人の私に説明してくれる。思いを伝えたい人がいると感じた」と振り返る。

世界は日々大きなニュースがあふれており、発災直後を除くと、日本の地震が海外で報道される機会は多くはない。大きく扱ってもらえないかもしれないが、再び現地に入ろうと考えている。

「災害時の支援、被災者をどうサポートするか、日本人だけでなく、世界の人が知らなければいけないことだ。長く続く大変な生活を、写真で世界に知らしめたい」と、静かに語った。

ブディカさんは、スリランカの大津波、内戦などの取材を経て2009年に来日・東日本大震災、広島県の土砂崩れなど、紛争や災害現場の撮影経験がある。自身の交流サイト(SNS)に、写真の一部を掲載している。

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