認知症発症遅らせる可能性あり 毎週の頭使いながら体動かす運動 国内で唯一、介入効果が出現 神戸大と市の共同研究で

2024.03.09
地域注目

データを示し介入(頭を使いながら体を動かす運動など)により、認知機能が高まったと報告する古和教授=兵庫県丹波市氷上町本郷で

頭を使いながら体を動かす運動を定期的、継続的に行うことで、認知機能が向上し、認知症の発症を遅らせる可能性があることが、兵庫県丹波市と神戸大学が取り組んだ共同研究の結果から分かった。研究責任者の神戸大学大学院保健学研究科教授で、認知症予防推進センター長の古和久朋さんが、丹波市内で研究に協力した市民ら約200人に報告した。成果を踏まえ、新年度から次の研究に入る。市内で広く行われている「いきいき100歳体操」に、頭を使いながら体を動かすミニ認知機能プログラムを追加。2026年3月末まで研究を続け、認知機能の維持・向上効果があったかどうかを調べる。全国4カ所で同時期に同様の研究が行われ、同市会場のみ介入効果が現れた。

認知症を遠ざけるには血管を柔らかく保つことが大事で、教室(週1回、90分)は血管の健康を保つためのもの。生活習慣病が血管に悪影響を及ぼすため、頭を使いながら体を動かす運動の他に、ストレッチ、エアロビクス、筋力トレーニングなどの運動や、栄養指導もあった。

研究の流れ

研究参加者は65歳以上の203人=図。20年10月から今年2月までの36カ月を、18カ月ずつ前半グループ「介入群」(教室参加者、103人)、後半グループ「対照群」(待機者、100人)に分けて実施。待機者が教室に参加していない、開始から18カ月時点の結果を評価し、介入効果を調べた。

前半グループ、後半グループとも6カ月に1度、▽身体機能検査(握力、筋肉量、歩く、立ち上がる能力、肺機能など)▽頭の働きについて7種類の認知機能検査(記憶力、注意力、効率的に計画・実行する力など)▽血液検査―の健康チェックがあり、データを蓄積。研究開始時と、18カ月時は、タブレットなどで認知機能評価をするトランプゲーム「のうKNOW」に取り組んだ。

単語の記憶、論理的記憶、注意力などを点数化。開始時点を100点としたとき、18カ月後の比較は、教室参加者が154点、待機者は139点と15点差がついた。

参加者は足の筋力が増強し、呼吸筋力の向上も認められ、頭と体の働きが良くなることが明らかになった。「呼吸筋力の増強により、強い咳ができ、誤嚥性肺炎など呼吸器疾患の予防につながる可能性がある」とした。

18カ月後の「のうKNOW」の検査でも、教室参加者の方が集中力、注意力、反応速度のスコアが高かった。

「いきいき100歳体操」へ導入が検討されている、頭を使いながら体を動かす体操の動画に合わせ、画面の人物に勝つように考え、後出しでじゃんけんをする参加者たち

20年秋に全国4カ所で始まった認知症予防の本邦初の本格的多因子研究「J―MINT」(代表・国立長寿医療研究センター)の1会場。同様の取り組みを実施したほかの3会場(愛知県、東京都、神奈川県)は、介入効果はなかった。丹波でなぜうまくいったのか、要因を解析中。

他の場所と比べ丹波市の研究参加者は、日常生活を問題なく、元気に過ごせている人が多かった(元々の認知機能が高かった)。コロナ禍にもかかわらず教室が継続開催され、かつ参加率が最も低い回で83・4%と、圧倒的に高かった。他の会場は、病院で検査に引っかかった人や、高齢化率の高い団地の自治会員を対象にしていた。

丹波市は認知症予防のモデルケースとなり得るとし、神戸大は市の協力の元、より詳細な調査を行うとともに、より多くの人が参加でき、継続可能な教室の運営方法を模索する。市内で広く普及している「100歳体操」(195会場)の場を活用し、認知症予防介入の効果を研究する。

身体運動の同体操に、認知機能プログラムを組み込む。頭と体を同時に使う体操のDVDを流すのか、オンライン受講とするのか、全会場か一部のみかなどは検討中で、開始時期も調整中。

研究参加者は教室終了後、自主グループで運動を続けている人もいれば、いない人もいる。これらの人の認知機能などを26年3月末まで定期的にデータ収集する。追跡により、後半グループの認知機能が前半グループと同様に伸びているのかどうか、前半グループの認知機能が維持できるのかどうかなどを調べる。維持できている人がどんな生活習慣なのか、などを明らかにすることを目指す。

【古和久朋教授の話】 2015年にフィンランドで世界初の認知症予防研究が成功した。それよりも、もう少し強い、良い結果が出た。丹波市の成果を論文で世界に発信する。「100歳体操」のような身近な所でプログラムに取り組むことで、健康寿命の延伸や認知症予防効果が得られ、社会保障費の削減につながることが分かれば、削減の一部を予防に使おうという話になるかもしれず、丹波市で研究を継続することは意義がある。

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