売れ筋は「コーヒー」マグ ”孫ターン”し、ユニーク作品 連載「丹波篠山 工芸と人と」

2024.07.11
地域注目観光

人気のコーヒーマグなど

森脇 要さん(44)=兵庫県丹波篠山市味間南=

マグカップに並んだ「コーヒー」の文字。裏面には、「こーひー」。あ、「珈琲」も。目の前にあるカップが何を飲むためのものか、こんなにも迷う必要がない商品はなかなかない。ユニークな一品で、売れ筋ナンバーワンだが、「自分が好きなのはシンプルな陶器。悩みですねぇ」―。作家の柔和な笑顔が全てを伝えている気がする。

母の実家で、かつて祖父母が暮らした丹波篠山市味間南の家に〝孫ターン〟し、作陶に励んでいるのは島根県松江市出身の森脇さん。陶芸を生業とした理由を問うと、「なんとなくなんです」とまたほほ笑む。

学生時代は同志社大学で哲学や倫理を学び、宮沢賢治を研究したが、いざ社会に出る段になると、「しゃべるのが苦手」で、特にやりたいことがない自分と出会う。消去法で仕事を考えるうち、ふと図工や美術が好きだったこと、「職人」に憧れを抱いていたことを思い出す。京都伝統工芸大学校で陶芸を学んだ後、丹波焼の窯元で修業し、独立した。土をひねる日々には、「なんだかんだ合っていたと思います」。

「コーヒーマグの人と呼ばれているうちに、次の一手を」と語る森脇要さん

冒頭のコーヒーマグのほかに、羊を描き、それぞれに取り分ける「メーメー皿」、ゾウを描いたカップの受け皿「ゾーサー」―。遊び心満載の楽しい作品が人気だが、自身の好みは、土の色や釉薬を生かした器。「マグを手にしてくださった人が、それ以外の作品にも興味を持ってもらえれば。注目してもらっている間に次の一手を考えないといけないですね」。感性と生業の狭間で悩みつつも、創作を楽しんでいる。

制作時間を確保するために自宅での販売はしておらず、店舗や百貨店の催事、イベントなどに作品を出している。

祖父母の家は幼い頃から遊びに来ていた場所。「夏休みなどに来ていたので、ウキウキしたという印象のある家。草刈りが大変ですが」と苦笑する。

穏やかな時間が過ぎる。

※この連載では兵庫県丹波篠山市内に暮らし、工芸を生業とする人々を紹介していきます。

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