4月29日付の本紙「ひと」欄に「複業」という言葉があった。副業ではなく、複業。初めて知る人も多かったろうが、今後、普通に通用する言葉になるかもしれない。
働く場を一つに限らず、複数の仕事に並行して励むことをいう複業は、かつて当たり前だった。たとえば、江戸時代の町人。朝は障子の張替えをし、昼から豆腐を売り歩き、夜は屋台に立つ。そんなふうに、一人でいくつもの仕事をこなした。思えば、農閑期に酒造りの出稼ぎに行く丹波杜氏も複業を地で行っていたと言える。
時代が下るにつれ、会社に属して単一の仕事に従事するのが当たり前になったが、その常識がほころび始めたようだ。綾部市の塩見直紀氏が提唱した「半農半X」が、国内外で反響を呼んだのもその表れだろう。米や野菜などを育て、安全な食材を手に入れる一方、個性を生かした自営的な仕事にも携わり、一定の生活費を得る暮らし方。これも複業の一つの形態と言える。
複業には、働く場ごとのコミュニティがある。複数のコミュニティで自分の居場所が得られ、さまざまな人との交流がある。
また人生百年時代とも言われる今日。会社を辞めてからの時間が途方もなく長い。複業は、そんな現代をしなやかに、自分らしく生き続けるライフスタイルとなるかもだ。(Y)