磁性で世界的な実績
東北大金属材料研究所教授 山口泰男さん (仙台市在住)
(やまぐち・やすお)1939年 (昭和14年) 葛野村 (現氷上町) 生まれ。 柏原高、 大阪大理学部卒。 同大学院博士課程。 88年より現職。
東北大学の金属材料研究所は第一次世界大戦後に鉄鋼の研究を目的に設立された。 山口さんはこの研究所で放射線金属物理学研究部門を率いて、 金属、 金属化合物の 「磁性」 の研究を行っている。
「もともと産学共同の研究所で、 ビジネス界との交流が盛んです」。 20年ほど前にはある企業と協力して、 世界一強力な永久磁石の開発に携わり、 その技術は今も小型モーターや医療機器など、 日常生活に役立っている。 現在は原子レベルのミクロな視点から磁性を研究。 その研究手段である中性子を用いた研究はここ10年ほどで世界のトップレベルに追いついたという。
山口研究室は助教授、 助手など5人のスタッフのほか大学院生、 学部生6人。 「なぜ物質が磁石にくっつくのか、 もっとよくくっつくものはないか」 と日々研究にいそしんでいる。 全国の大学にも開かれていて、 各地から集まる研究者や技術者も指導している。
同僚に 「あなたは通勤の時、 大学が近づくにつれ足早になる」 と言われた。 「『あれとこれを組み合わせたら、 どんなものができるのか』 と考えると、 毎日職場へ行くのが楽しくて仕方がない。 ある元素をいくつか組み合わせて、 新しい化合物を無限に作り出すことができる面白さ。 ニュートンが 『砂浜で遊んでいる子どものようだった』 言った気持ちがわかりますね」
最近の大学生の学力低下が問題になっていることについては、 「私はそれほど心配してません。 深刻なのは彼らのバイタリティーのなさです」。 日本の研究機関の知的レベルや技術の高さは一流であるものの、 若者たちのハングリー精神のなさが日本の将来を危うくすると憂慮する。 「途上国の優秀な研究者がいます。 そろそろ移民政策を考え直さないと、 国際競争に遅れますね」
自然に恵まれた丹波で育ったことを実感する。 「実験室の中でも自然に化合物の性質が捉えられます。 文献から考える都会育ちの学者と違って、 自然の振る舞いが予測できるのではないかと思いますね」。 東北の寒さにも、 「高校まで30分も自転車を飛ばした冬の朝の体験があれば、 どんな寒さにも耐えられますよ」 と微笑んだ。
(上 高子)