今月13日に100歳の誕生日を迎える。夫の戦死、慣れない農業、一人での子育て。折れそうになる心を支えたのは、いつも「短歌」だった。
―花嫁の時の心で姑になってみたきと今は思えり
18歳で嫁いだ後、生家へ送った手紙にしたためた初めての歌。初々しい気持ちを忘れずにいたいと決意を込めた。
子どももでき、ようやく幸せな家庭を築き始めたころ、夫が戦地へ。武運を祈り、田を耕し、銃後の妻を務めながら、夫の帰りを待った。
―復員の記事読むごとに今宵こそ夫帰り来ぬかと化粧して待つ
返信のないはがきを送り続けた。「夢ではよくお出会いいたしますけれど、実際にお出会いできる日はいつのことやら、心細い限りです」。夫が骨となっていたことを知ったのは、戦死から3年が過ぎていた。
―残る代を二人の子の為生くるべく誓いし心ゆるがんとす
ひたすら農業に精を出した。娘たちも一生懸命助けてくれた。「なぜそんなに子どもを使うのか」と言われたこともあった。つらい時代を思い出すたび、涙が浮かぶ。
35歳の時、本格的に短歌を学ぼうと短歌会に入会し、以来65年間、仲間や師にも恵まれ、歌を詠み続けてきた。
「もう体にしみついてしまいましたね」。生活のふとした瞬間に言葉が浮かぶ。自然と短歌の形になっている。思いを歌に詠み、そして、その歌に助けられた。
今では孫3人、ひ孫7人。誕生日の前にはお祝い会を開くと言ってくれる。「みんなが寄ってくれて、本当に幸せです」
きっとまた新しい歌が生まれる。99歳。