役者は、2つの目を持たなければいけないそうだ。

2007.02.03
丹波春秋

役者は、2つの目を持たなければいけないそうだ。ひとつは自分の顔の中にある目。もうひとつの目は、客席の中に置くという。客席から見ると、自分の演技がどのように映っているか。舞台に立っている自分の姿を、離れたところから冷静に見つめることが必要なのだ。▼この2つの目を、世阿弥は「離見の見」と言った。おそらく小泉首相は、離見の見を心得ているに違いない。国民というお客が座っているテレビの向こう側に自分の目を置き、自分の言動はもちろん表情、服装、髪型、間の取り方までもチェックしているように思う。激しても離見の見を忘れず、怒りを演じようとする計算が透けて見える。▼世阿弥は、「衆人愛敬(あいぎょう)を旨とする」とも言った。お客に受けてこそ芸術、という意味だ。この教えを応用すると、有権者に受けてこそ政治であり選挙だとなる。その点からも今回の総選挙は「劇場型」であり、小泉劇場はお客の拍手喝采を集めた。▼ただし劇場で繰り広げられる世界は虚構であり、真実ではない。劇作家でもある坪内逍遥は、「劇は本来、多少の虚偽を寛容せざるを得ざるもの」と言い、劇場には、うそもあることを素直に認めている。▼私たちが暮らしている世界は、劇場ではない。首相や政治のこれからの動きに、うそがないか注視しよう。(Y)

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