食卓に旬のナスやサンマが並び、夜風にひんやりとした空気を感じるこのごろ。夏もそろそろ去り、秋に変わろうとしている。さわやかな秋風が吹く日もそう遠くなかろうが、春風と比べて秋風はどこか無常な感がある。▼春風には穏やかなイメージがあり、態度や性格がおおらかな人を「春風駘蕩(たいとう)たる人物」と評する。これに対して秋風は、男女間の愛情が薄らぎ始めることを「秋風が立つ」という。これは、秋の音が「飽き」に通じることかららしい。▼変わりやすい秋の空にたとえて、「女心と秋の空」ともいう。この言い方が広まったのは、女性の地位が向上した戦後になってからのようで、それまでは「男心と秋の空」が主流だった。要するに男も女も、その心は定まらず変わりやすいということだ。▼衆議院選挙が公示された。大衆の好奇心をくすぐるような話題が次から次へ飛び出したが、好奇心をよりどころにした話題というのは鮮度が長持ちしないもの。最初のうちこそ関心を集めるが、やがて見向きされなくなる。秋の空のように人の心はうつろいやすいのだから。ましてや、「飽き」に通じる秋が始まろうとしている。▼国政の舵取りをだれに託せばいいのか、各政党や候補者の主張にじっくり耳を傾け、考えたい。決して飽きることなく、心を定めて。(Y)