昭和初期、兵庫県丹波市市島町で干ばつに悩む農民を救うため、ため池の築造に尽力し、今なお「丹波の農聖」と語り継がれる吉見伝左衛門。村長として4年半の歳月をかけ、ため池「神池」を完成させた地域の先人をたたえようと、地元住民が伝左衛門の功績を伝える朗読劇を作った。秋祭りで上演し、伝左衛門の信念を受け継ぐ機会にする。
完成後も土手に腹ばい、水漏れないか通いつめ
伝左衛門は明治16年、同県丹波市市島町の鴨庄村の生まれ。貧しくも勉学に打ち込み、小学校の教師になった。昭和3年には同村の村長に就任。給料の受け取りを辞退し、村人の生活向上のために使用すると話したという。
当時、村にはため池がなく、日照りが続くと飢饉になった。伝左衛門は国や県の補助を取り付け、築造に取り掛かったものの、「ため池の堤防が切れたら、村人は死んでしまう」「水は本当にたまるのか」などと村人の無理解にあったという。
無事に完成したが、伝左衛門は夜中に提灯を照らしてため池に通い続け、土手に腹ばいになって耳を近づけた。静かな夜なら、水が漏れる音などが聞こえるからと考えたためで、毎日のように駆けつけたという。
翌年、梅雨でも雨が降らない日照り続きだったものの、同村だけはため池のおかげで大豊作になったという。
約30分間の朗読劇は、14日に市島町鴨庄地区で行われる秋祭り「鴨庄秋の感謝祭―吉見伝左衛門からのバトン」で上演する。祭り実行委員の木寺章さん(72)が脚本を担当し、伝左衛門の思いや逸話、当時の村の様子なども盛り込んだ。木寺さんは「地域として、伝左衛門の信念を受け継いでいきたい」と話す。
実行委員長の高見忠寿さん(36)は、「伝左衛門がいかに偉大な人だったかを知ってもらえれば。飲食もあるので、食欲の秋を楽しんでほしい」と話している。