産科医の減少などにより、日本全国で問題となっている「分娩休止問題」。兵庫県丹波篠山市にある兵庫医科大学ささやま医療センターの産婦人科も、来年4月から分娩の取り扱いを休止する。同市を含めた丹波医療圏では、隣接する丹波市の県立丹波医療センターが唯一の病院産婦人科となる。同センターの望月愼介産婦人科部長(52)に、厳しい日本の周産期医療の実情を踏まえ、分娩休止の受け止めと、同センター産婦人科の展望などを聞いた。
医師数増加も産科医師は減少
―ささやま医療センターの分娩休止をどう受け止めているか。
分娩はいつ始まるか分からず、250人に1人の割合で大量出血など大変重篤な状況に陥ることがある。そのプレッシャーの中、2人で24時間365日、分娩施設を維持するのは体力、精神的に非常に厳しく、休止は妥当だ。
丹波医療センターは幸い、4人の常勤医がいるが、医師確保が難しくなれば、同じようなことが起きる。人ごとではないと受け止めている。今の医師数が維持されるのであれば、丹波篠山市の妊婦を受け入れられる。
毎年、全体では医師数は増えているが、産婦人科医は減っている。不妊治療だけ、がんなど婦人科領域だけ診る婦人科医師は増えているが、分娩を取り扱う産科医師が減っている。産婦人科全体が減っている上に産科はさらに減っており、分娩施設が減る。集約は避けられない。
―ささやま医療センター以外にも、兵庫県内では市立加西市民病院、小野市の開業産院、尼崎市の3施設が近く分娩休止をする。丹波医療センターは大丈夫かと心配する。
医師の異動があっても補充があり、4人が担保されれば今の診療体制は継続できる。私たちは神戸大学の医局から派遣されているが、丹波医療センターの常勤医4人は、神戸市の六甲山以北では、済生会兵庫県病院(同市)に次いで多い。どの病院も非常に厳しく、他病院で欠員が出た時に医局人事で異動ということはあり得る話だ。
任せるところは任せる
―丹波医療センターの産婦人科を存続させるため、どう取り組むか。
都市部に負けない教育を提供することで、大学にアピールし、後期研修(医師免許取得後3―5年目)の若い医師を呼び込みたいと考え、実践している。帝王切開など産科の手術はもちろん、悪性腫瘍手術、腹腔鏡手術など、産科と婦人科を均等に教えている。若い医師は、どこで何が学べるかを気にしていて、成長できない所には来ない。地方は、なおさらだ。
教育に力を割けるのは4人いるからで、医師数が減ると、目の前の患者さんのことで手一杯になり、教育に時間と労力を割けなくなる。2人でされている『ささやま』の医師確保の難しさは、教育面からもうかがえる。症例数も多くなく、若い人が行きたいと思わないだろう。
―周産期医療に関し、丹波地域にはNICU(新生児集中治療室)を備える地域周産期母子医療センターがない。不都合はないか。
当院は昨年、230分娩ほどを扱っているが、昨年生まれた赤ちゃんで高次医療機関に搬送したのが7人。妊婦の母体搬送は5人。合わせて5%だ。搬送先は、周産期センターの済生会兵庫県病院や神戸大学病院(神戸市)。丹波地域で完結することは、マンパワーや設備などを考慮すると実現不可能。妊婦や胎児、赤ちゃんのリスクを極力減らす術を考え、済生会や大学に任せるところは任せる、今のやり方しかない。
内科合併症や通常の分娩には十分対応できる。病院が新しくなったのを機に、LDR(陣痛分娩室)や病室がきれいになった。食事もアメニティも見直した。赤ちゃんへのプレゼントも始めた。当院で産もうという人が増えるだろう。今年は280から300分娩くらいの間で推移するだろう。
女性医師のための環境整備を
―過酷ゆえになり手が少ない産婦人科医。地域に産婦人科を残すには何が必要か。
短期的には、今いる医師が辞めないようにすること。民間病院より低い給与を見直し、離職を防ぐ。20―30歳代では7割ほどが女性医師だ。彼女たちが妊娠、出産しても働き続けられる環境整備、例えば24時間保育所などが必要。
中長期的には、地域周産期医療に従事する県養成医師を育てる。私自身が丹波地域の周産期医療のためにできることは、若い医師への教育を通し、今の医師数4人を維持することだ。
◆ささやま医療センターの分娩休止 医師2人での継続は困難として来年3月末で取り扱いを休止する。取り扱い数は、2018年度で124件。妊婦健診は継続する。丹波篠山市で分娩可能な施設は「タマル産婦人科」一つに。
◆望月愼介(もちづき・しんすけ) 神戸大学院修了、医学博士。日本産婦人科学会産婦人科専門医、指導医。母体保護法指定医。明石医療センターを経て2017年に着任。