テレビにしばしば登場する県知事が、孔子の言葉「民は之を由らしむべし。之を知らしむべからず」を引き合いに出し、日本の政治を批判していた。「国民に何も知らせる必要はない、従わせればいいという考えが為政者にはある」という内容だった。▼為政者の考え方の正誤はともかく、孔子の解釈には誤りがある。評論家の伊藤肇氏によると、「由らしむべし」の「べし」は、「信頼させねばならぬ」という命令の助動詞で、「知らしむべからず」の「べし」は「知らせることはできない」という可能の助動詞だという。▼したがって「為政者は、民から満幅の信頼を寄せられることが肝要だ。複雑な政治を民に理解させるのは、難しいことだから」という意味になる。「この人なら政治を任せられる」と民衆から信頼される為政者であれ、と戒めているのだ。▼それは為政者の理想的な姿だが、私たちはしばしば正反対の為政者を見てきた。かつて大臣を務めた渡辺美智雄氏が「理想家に政治家が務まるとは限らない。クリーンなだけで政治がやれるのなら、科学者か宗教家がやればいい」と発言し、物議をかもしたが、偽らざる本音だろう。そんな政治家にとって、孔子の言葉は噴飯ものでしかない。▼国民の信頼を失った中から再スタートする安倍内閣。孔子の忠告は耳に届いているか。(Y)