め、め、め、め、め―。独特の競りの掛け声が兵庫県丹波篠山市の「丹波篠山市場」に響く。通称「めんめん棒」を手に、競りを取り仕切っているのは井関智晴さん(28)。市場長の井関利昭さん(62)の息子で、バトンならぬ、「棒」を引き継いだ2代目せり人だ。神戸の市場で働いた後、Uターンし、父と共に競りに臨んでいる。「生産者と仲買人の間に立ち、適正な価格で農産物を流通させるのが仕事。少しでも丹波篠山の活性化に役立てたら」とほほ笑む。
県立篠山東雲高校を卒業後、神戸市中央卸売市場東部市場内にある「神戸中央青果」に就職。8年間、同社でみっちりと市場のいろはを学んだ。
「父も市場をやっていて、幼い頃から仕事を見ていた。就職する時期になって市場を選んだのは、やっぱり影響があったのかもしれません」
2018年3月、利昭さんが経営した篠山魚市場が閉場し、同年、新たに丹波篠山市場が開場。引き続き利昭さんも市場に関わることになったことから、昨年6月、智晴さんも帰郷し、親子で新市場を支えるようになった。
「神戸の市場と比べて100分の1ほど小さい」というものの、農家が丹精した野菜が並ぶことには変わりがない。今年1月からは利昭さんに変わってめんめん棒を振り、競りを仕切る。
「100円」などと値段を示した後に、「め、め、め、め」と声を出し、棒を手に競り落とす人を募る掛け声も継承。利昭さんによると、江戸時代に使われた単位「匁(もんめ)」の「め」に由来すると言い、丹波篠山の市場独自の伝統という。
10月に入り、特産の黒枝豆の入荷がスタート。3日には初マツタケの競りも仕切り、「競りをしているときは一生懸命で何も考えていなかったけれど、どんどん金額が上がっていき、とても緊張した。初マツタケの価格は青天井。こんなに高額の競りをやったのは初めてだったので」と苦笑する。
仕事の楽しさは、消費者に届く農産物の相場を自分で判断すること。プレッシャーでもある一方、やりがいにもなっている。小売店ではいつも小売価格をチェックし、相場感を養う。自分の描いた価格と仲買人の価格がマッチした瞬間は、「とても気持ちがいい」と話す。
とはいえ、利昭さんが横で相場価格を告げるなどサポートする場面もある。智晴さんは、「私は未熟。やはり長年やっている父の相場感はすごい。仲買人さんの顔を見れば相場が分かるというほど。一朝一夕でできるものではない」と感服する。
「丹波篠山の農産物をしっかり売って、内外に広め、まち全体が活気づくようにしたい」と今後の目標を語り、「農家さんの喜ぶ顔を見ていると、がんばらないといけないと思います」と笑う。
息子が棒を振る姿に利昭さんは、「やっぱりうれしいもんです」とほほ笑み、「息子は私と一緒でおしゃべり。せり人は合っていると思う」と豪快に笑った。
初マツタケが登場し、5日には黒枝豆の販売が解禁。市場の活気は最盛期に入る。