兵庫県丹波市春日町中山の荻野恭三さん(71)が、昔懐かしいわらぶきの古民家や、伝統的な合掌造りや曲がり家の家屋など、生活感あふれる日本建築を表現したミニチュア作りを楽しんでいる。ヒノキを柱や梁にした紛れもない“日本家屋”で、土壁や漆喰も用いている。建具や炊事場、床の間や土間など細部にまでこだわってこしらえており、今にも生活が始められそう。完成まで3年ほどかけて作り込む荻野さんは、「思った通りに仕上げるのが楽しい。生活感があふれる作品にこだわっている」と話している。
いずれもホームセンターなどで購入した細いヒノキの部材を骨組みとし、接着剤や釘で組み立て“上棟”する。高さ70センチほどある白川郷の合掌造り、上から見るとL字型をした岩手県の「南部曲がり家」などは、屋根をススキで表現。1作品に軽トラック1杯分のススキを冬に刈り取り、太さがそろうように選別、防虫剤と共にバケツに入れて1年間寝かせた上で使用した。
瓦ぶき屋根の家屋は、今はない自身の生家。屋根は紙粘土でこしらえ、彫刻刀で削って一枚一枚の瓦を表現した。間取りなど暮らしていた当時を思い出しながら製作にあたった。
どの作品も、外観だけでなく内部も作り込んでいる。屋根の部分が外せるようになっており、床の間に掛け軸があったり、違い棚や仏壇、和室の畳に至るまでを眺めることができる。縦10センチ×横5センチの建具にも、障子紙を張ったり、ガラスに模した透明のプラスチックを当て込んだりしている。桟を彫刻刀で彫っているため、実際に開け閉めでき、「南部曲がり家」には50枚の障子やふすまがある。
20歳のころ、囲炉裏に鍋などを吊るす道具「自在鉤」に興味を持ったのが最初。長い年月使い込まれた竹筒の色合いに引かれ、自作するうちに、人の営みがにじみ出る伝統家屋のミニチュア版の製作に行き着いた。
電気設備の自営業で、大工経験はない。設計図は書くが、作りながら学んで技術を上げていくタイプ。15年ほど前に自分で建てた作業小屋で製作に没頭する。プラモデルにはない、自分にしか作れない“味”を作品に盛り込むのが魅力という。
現在は水車小屋を製作中。「自分が住んでみたい家屋を作品で表現することが夢」と思い描いている。