音楽家・映像作家の高木正勝さん 中学校で講演「なりたいより、できること仕事に」

2021.06.16
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音楽を始めたきっかけや中学生に向けたメッセージを語る高木さん=兵庫県丹波篠山市東沢田で

放映中のNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」の劇中音楽を担当している、映像作家で音楽家の高木正勝さん(41)がこのほど、兵庫県丹波篠山市の篠山中学校で講演した。要旨を紹介する。

◆コンテストで入賞 時間の全て音楽に

朝ドラの音楽をさっきまで作っていた。家へ送られてくる映像に合わせてシンセサイザーとパソコンで音楽を作る。完成したら東京のスタジオに入り、オーケストラと一緒に演奏したりしてみんなで仕上げる。普段は家で朝から晩までひたすら音楽を作っている。10年間で100曲くらいテレビコマーシャルの音楽を依頼されてきた。

この仕事に就いたきっかけは、小学5年の頃、妹の電子ピアノが家にあったので、CMやファミコンのゲームから流れる音楽を弾いてみると、同じ音がピアノから出てきたのに驚いた。自分の中では大発見だった。

それから暇な時にピアノで遊び、中学1年からはピアノを習い始めた。サッカーもやっていた。将来、音楽の仕事をしたいなぁとぼんやりと思っていたが、あまり深く考えていなかった。中学3年の時に親にシンセサイザーを無理やり買ってもらい、高校に入ってからもそれで1人で遊んでいた。

20歳を越えてからカメラに興味を持ち、映像を撮るようになった。電線に鳥がとまっている様子や旅先での出来事を映像作品にした。美術館に展示されている絵のように映像作品が飾られたらな、と思いながら作っていた。大学1年の時、FMラジオのコンテストで入賞し、映像や音楽を仕事にしようと思った。全部の時間をこれに使いたいと大学をやめた。大学4年生の年齢までに大卒の初任給ほどを稼ごうと、残りの3年間、がむしゃらにやっていた。

◆CDきっかけに “わらしべ長者”

自分が聴くために作っていた音楽が10曲くらいたまり、他人が聴いても面白いはずだと思って、20歳の時にニューヨークに行った。自分が作った映像や音楽をとにかく美術館やギャラリー、レコード会社に渡しまくった。

作ったCD20枚の最後の1枚を、ニューヨークで泊めてくれた友だちの知り合いのレコード店員に渡したら、CDを出す仕事を始めるから使わせてほしいと頼まれ、デビューできた。

帰国すると、ファッションブランド「アニエス・ベー」の店で、自分の映像を流したいという依頼があった。そして、その映像を見たミュージシャンの細野晴臣さんとCDを出すことになった。1人が気に入ってくれると次の機会を与えてくれて、気付いたら映像美術館で展示したり、CDを出したり、映画音楽を作ったり、どんどん巻き込まれて今がある。今振り返ると、わらしべ長者みたい。

◆恥ずかしがらず まずやってみる

将来の夢は何ですか、と聞かれて困りませんか? 僕は困った。野球選手になりたいと言えるのは、野球ができるから。僕は中学生の時はできることがなかった。ピアノも弾けないし、音楽を作れる自信もなかった。

実際はやりたいことより、できることの方が大切で、「今、映像を渡すから音楽を作って」と言われたら、僕は20年やってきたからすぐできる。CMの仕事をもらったら、30分―1時間ですぐ仕上げて送れる。才能があるのかないのか分からないが、それができるから仕事を頼まれるし、仕事を受ける。ただそれだけ。

できることが仕事になると楽だなと思う。踊れる人は踊りの仕事をすると楽だと思う。自分ができることを増やしてください。なりたいじゃなく、できることを見つけて、そこにすがって生きていくのもありだと思う。

そして、いっぱい失敗しよう。曲作りを頼まれた時、いろいろ調べて絶対失敗しないようなものを締め切りの日までに1つだけ出す人と、途中までしかできていないものを毎日出す人の2種類ある。

自分は、途中で方向転換や肉付けを求められるが、いっぱい出す方がうまくいく。1つしか正解がないと思って、粘り続ける人はあまりうまくいかない。僕は仕事を受けた時、本当に作品を出すのが早い。

朝ドラの場合でも、脚本を読んでとにかく作る。恥ずかしがらずに送りつけて向こうに決めてもらう。1週間で100曲くらい渡して取捨選択してもらう。まずは恥ずかしがらずにやってみて、周りに分かってもらえないと仕事は来ない。

◆未来気にせず 今を楽しもう

仕事になっていないが、家で勝手にやっていることがある。それはツバメと遊ぶこと。山の中に住んでいるが、鳥の鳴き声に合わせてピアノを弾いている。自分がどうやったら鳥の邪魔にならずにピアノを弾けるかを勝手にやっている。夏はニイニイゼミに合わせる。3年やり続け、103曲録ってCDにしているが、そんなに売れない。

やりたいことだけをやっても食べていけない。でもそれでいい。やってしまって、お金がマイナスでもいい。誰かから「自分の庭に来て、鳥と一緒に演奏してほしい」と依頼があり、お金を払ってくれたら仕事になる。「鳥と一緒に演奏して」という変わり者はいないが、いつか実現したら面白い。

40歳になって気付いたことは、仕事がうまくいってお金が増えても、音楽を作って褒めてくれる人がいても、そんなにうれしくはない。その作品を作ったのはちょっと前の自分がやったこと。今できるわけではない。

年齢を重ねると、そういうことがだんだん増えてくる。中学生はあまり過去や未来のことを気にせず、いっぱい失敗して、いっぱい楽しいことして、今を楽しむことが一番。

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