兵庫県丹波篠山市の熊谷善次(ぜんじ)さん(95)は、8年ほど前から布草履作りに励んでいる。製作工程は「我流」と言い、色とりどりの着物の切れ端を感性の赴くままに組み合わせ、自作の「草履編み機」で編み上げる。全国のハンドメード作家の作品の委託販売をしている同市内の工房「K‘s GARDEN(ケーズガーデン)」(「里山工房くもべ」内)に置き始めたところ、購入者の間で「履くだけで元気をもらえる」などと評判に。熊谷さんは一昨年に妻を亡くし、現在一人暮らし。「売れ行きよりも布草履を通して、人とのつながりが増えるのがうれしい。一番の生きがい」とほほ笑んでいる。
市内のパソコン教室に約15年間通っていたことから、パソコン操作もお手の物。数年前までは「minne(ミンネ)」「Creema(クリーマ)」といったハンドメード作品販売サイトに布草履を出品し、ショップページの管理も手掛けていた。購入者から「土踏まずの部分が固い」という批評を受けたことに奮起し、今年、足裏の土踏まずの部分を分厚くした「心地よい布草履」という新商品も開発した。
商品に貼る値札シートや、「はいてみてみ」という文字と布草履のイラストが入った商品シールは、ソフトを使って自ら作成している。同工房代表の金崎美和さんは、「他の若い作家さんでもここまでされる方はいない」と舌を巻く。
工具や電化製品などはネットショッピングサイトで購入することが多いという。携帯はスマートフォンを使っている。
感銘を受けた金崎さんは、同工房のインスタグラム(写真・動画共有アプリ)で、95歳の男性が作っているという背景や、布草履が血行改善に良いとされていることを発信。フォロワーたちの間で「カラフルでかわいい」「履き心地が良い」と話題になっているという。商品として置き始めた先月16―31日までで、16足を売り上げた。
金崎さんは、熊谷さんが作った布草履を愛用しており、「布なので肌に優しく、履くたびに足に馴染んでいく感覚がある。親指と人差し指の間が痛気持ち良く刺激されるので、健康に良さそう」とほほ笑む。
熊谷さんは、47歳から約30年間、生まれた子に着せる「産着」の縫製工場を営んだ。工場をたたんだ後、長女から「産着の切れ端を使って草履でも作ったら」と勧められた。熊谷さんは「持て余していた時間をつぶすのにちょうど良かった」と笑う。
草履作りには、産着や、不要になった人が持ち寄った着物などの切れ端を用い、木製の台に丸棒を取り付けた「草履編み機」を使う。幼少期、母がわら草履を作るときに使っていたという専用道具から着想した。
丸棒にくくり付けたPPロープに布地を丁寧に編んでいき、鼻緒は家庭用ミシンで縫い付ける。表面のほつれはアルコールランプで軽くあぶって取り除き、仕上げる。2時間ほどで布草履1足が完成するという。
元気の秘訣を問うと、「特に運動もしていないし、特別な薬も飲んでいない。なんで自分がここまで生きられてるんか不思議に思うときもあるけれど、指先を使う仕事を長くしてきたのが良かったんかもしれんなあ」と笑い、「元気でいられる限りは、布草履作りを続けたい」と話している。
「はきま」という屋号で販売。大人用(21―26センチ)が1200円、子ども用(20センチ以下)は700円。