兵庫県丹波市出身の理学療法士で、姫路赤十字病院勤務の藤本智久さん(50)がこのほど、特に早産児の成長発達のケア、発達障がいの予防、親子の関係性を育むことを目的とする「NIDCAP(ニッドキャップ)」というケアモデルに基づき、ケアの仕方などを考える「プロフェッショナル」を育成する「トレーナー」の認定を受けた。国際NIDCAP連盟が認める資格で、藤本さんが国内初の認定。プロフェッショナルは現在、国内に20人いる。藤本さんのトレーナー認定を受け、10月にも聖隷クリストファー大学(静岡県)を本部とする「日本NIDCAPトレーニングセンター」が組織されることになり、藤本さんが初代センター長を務める。
NIDCAPは、新生児の神経行動発達理論と科学的根拠に基づくケアモデル。プロフェッショナルは、赤ちゃんの動きや皮膚の色などを観察して体の状態を読み取り、医師や看護師にアドバイスしてケアの資質向上や改善につなげる。藤本さんは2014年にプロフェッショナルを取得し、さらに今回、指導・育成の立場となるトレーナーの認定を受けた。
藤本さんによると、NICU(新生児集中治療室)にいる赤ちゃんにとっては、室内の明かりや、さまざまな医療機器の音、体重の計測や検査なども状態によってはストレスになり、発達に悪影響を与えているケースがある。このため、ゆっくり休ませたいときには保育器にカバーをかけて暗くしてあげたり、皮膚の色や緊張の仕方から、強いストレスを感じていると判断したときはケアを中断したりといった対応を取るという。
「以前、喉に詰まらせた痰を取った後によく眠った子がいた。NIDCAPを勉強してからは、疲れてよく眠ったのではなくて、ストレスをかけ過ぎて気を失っていたのだと気付いたこともある」と藤本さん。
同病院の小児科部長に理学療法士の立場から相談に乗ってほしいと声を掛けられたのがきっかけ。アメリカからトレーナーを招き、知識と経験を積んだ。さらに専門的な「APIB(早産児行動評価)」という難関の資格を取得。現場で看護師などにアドバイスする様子がチェックされ、2人の同プロフェッショナル認定者を育てるという条件をクリアした。
藤本さんは、「NIDCAP研修生に指導しながら、『APIB』を取るための自身のトレーニングを並行してやらなければならなったのが大変だったが、検査をするごとに赤ちゃんから学びがあったことや、指導していることが研修生に少しずつ伝わっているのが実感できたことがモチベーションになった。研修生がプロフェッショナルの認定をクリアしたときは、自分のとき以上の喜びがあった」と振り返る。
これまではNIDCAPを推奨する日本ディベロップメンタルケア研究会を通じて、海外からトレーナーを招へいしていた。藤本さんが国内初のトレーナーとなったことで、国内での普及を目指す上で、費用や言葉の面で壁が1つ取り除かれたことになる。トレーニングセンター組織後は、藤本さんのほか、同トレーナーの認定を取得見込みの3人を、手を挙げた病院へ派遣する。
藤本さんはこれまでに、374グラムで産まれた男児をケアした経験も。5歳になった今も、体格はやや小ぶりだが順調に育っているという。また、講演活動などを通じ、NIDCAPに対する小児科医や看護師、理学療法士らの関心も高まっていると感じている。
「赤ちゃんと家族のためにも、プロフェッショナルを増やしていきたい。NIDCAPの活動を理解してくれている職場にも感謝。トレーナーの名に恥じない働きをして、センターを軌道に乗せたい」と話していた。
高校時代には柔道部に所属。けい古中に左膝の靭帯を切り、入院、リハビリ生活を送ったのが、理学療法士を志すきっかけになった。「今となっては、その時に相手をしてくれていた同級生のおかげ」と笑った。
【NIDCAP】1984年にアメリカで体系化されたケアモデルで、世界25カ国で実践されている。日本では2007年に研修会が開かれたのをきっかけに09年から日本ディベロップメンタルケア研究会による研修が始まり、11年に初のNIDCAPプロフェッショナルが誕生した。現在、20人(看護師17人、理学療法士2人、臨床心理士1人)のプロフェッショナルが国内9病院で働いている。