米離れに加え、新型コロナウイルスの感染拡大による外食需要減、在庫の増加で、全国的に米価が下落しており、令和3年産米の仮渡金も大きく下落している。兵庫県丹波市内でも、JA丹波ひかみが、集荷時の仮渡金をコシヒカリ一等米30キロ(1袋)で5600円とし、昨年の6500円から約14%値を下げた。JAの価格を参考に卸売り業者も買い取り価格を決めることから、JA以外に出荷する人も同様の影響を受ける。出荷量が多い生産者ほど影響が大きくなる。市内の産直市では、個人米の新米が令和2年産と同じキロ500円前後で販売されている。固定客がある有機米は米価下落の影響は受けていないが、量が限定的で、大多数の農家で減収は避けられない。
市内最大手がJA丹波ひかみ。昨年度で約13万袋集荷した。コシヒカリ一等米30キロの場合、昨年度は追加払いが300円、別途出荷契約し、一定数量の条件を満たした生産者に出荷奨励金100円を支払っており、3月末では6800円か6900円になった。
JA米は、全農兵庫が業者に販売する。仮渡金は各単位JAが決める。県内でも産地の人気によって売れ行きにバラつきがあり、全農兵庫は「丹波地域の米は引き合いが強い」と、県内の他のJAと比べ、丹波ひかみの仮渡金は下落幅が小さいことを示唆する。県内トップ級人気のJA丹波ささやまの仮渡金は6000円。昨年は7000円だった。
丹波地域では、コシヒカリは「1反で3石」(450キロ)が目安と言われる。仮渡金ベースでは、反あたり1万3500円減収の推計になる。追加払いがあれば、実際の減収はこれより小さくなる。JA丹波ひかみは、今年度も100円の出荷奨励金を3月下旬に支払う。
市内の認定農業者は、「全国的なことで仕方がないが、影響が大きいどころじゃない。100万円以上減収になる生産者が、ぼこぼこ出る。最終精算で6000円になれば上等じゃないか」と言う。米作りを続けようか、やめようか迷っている高齢者が離れ、来年、遊休農地が増えかねないと懸念する。小麦の値上がりで、米への回帰が進み、米価が上がることに期待している。
JA丹波ひかみは、「コロナ禍で厳しい状況だが、JAグループとして農家に少しでも多く支払えるように取り組む」とコメントした。
単価下落の影響は、JA以外の米の卸売り業者に販売していた生産者でも同様だ。市内のある営農組織は「取引先の卸売り業者に電話すると、『買って』とも言っていないのに『安いで』と言われた。買いたたかれるみたいで、気分が悪い」と憤る。「せめて1袋(30キロ)7000円で売れないと、機械の修理代などの経費が出ない。1袋につき100円、200円でも高く売りたい。『安い』ムードに流されず、熟慮して売る」と言う。
とはいえ、米価の変動に関係なく1袋8000円で取引していた飲食店への販売量がコロナで激減。余剰在庫40袋を1袋3500円で売るしかなかった。「今年は出来も悪い。単価が安く、収量も少なく、ダブルパンチ。やってられない」と肩を落とした。
米価下落の影響を受けないのが、観光客向けの販売や個別取り引き。道の駅丹波おばあちゃんの里(春日町七日市)は、新米コシヒカリの玄米を30キロ1万1000円で販売している。他の施設も、キロ500円前後で売る。「個人米は人気がある。値下げしなくても良く売れる」(同施設)。
丹波市有機の里づくり推進協議会の会長で、JA丹波ひかみの丹波有機米研究会のメンバーの小橋季敏さんは、「有機米は信頼関係の中で顧客への直売が多く、影響がない。JAも有機米は他の米とは区別するだろう」と米価は心配していない。「コロナが落ち着き、12月ぐらいから外食産業が元気を取り戻し、米需要が増えれば、一般の米価も上がるのでは。コロナの動向次第」と先を見通す。
県稲作経営者会議の会長で、まるきん農林(同市青垣町)の堀謙吾社長は、生産者でもありながら年間1万袋を扱う卸売り業者でもある。堀社長によると、自社生産した米は全て売れて、在庫を抱えていないが、卸売業者としては、仕入れた米の在庫を抱えているという。
卸売りの立場からは、「今年は農家からの買い取り価格を下げ、取引先への売値も下げないと、さばけない。取引先に聞くと、30キロ1袋で500―1000円、価格が下がっている」と悔やむ。生産者の立場からは、「大規模農家でも、30キロ7000円を割ると、原価割れ。この米価は死活問題で、正念場。これが底値であってほしい」と願う。また、「耕作面積が少ない兼業農家は生産原価がより高い。知り合いから買っている人は前年同様の値段で買って、生産者を元気づけてほしい」と話している。
市の2019年度の水稲の作付面積は約2900ヘクタールで、県内最大。