兵庫県丹波地域で新型コロナウイルスの新規感染者がほとんどなくなったことを受け、高齢者施設の面会禁止措置が徐々に緩和に向かっている。特別養護老人ホーム松寿園(丹波市氷上町)で6日、面会禁止の間、入所している母に励ましの手紙を送り続けた娘が母親と窓越しに面会。「お母さん、来たで。元気しとってやねえ」と声を掛けられた女性は、「ありがとう」「うれしい」としっかりした声で応じた。母に語り掛ける娘の瞳は、潤んでいた。
娘の井本公子さん(75)が、つや子さん(99)を訪ねた。つや子さんの部屋は1階窓側。声が聞こえるように、職員が窓に体を近づけてくれた。
5年半ほど前の入所以降、足繁く面会に通っていたが、コロナで会えなくなり、手紙を書くようになった。施設が保管している手紙は、1年半で61通を数える。面会ができなくなったことで、機嫌良く過ごしているんだろうかと、以前に増して考えるようになり、どんなことを書いたら喜ぶだろうと思いを巡らせ、ペンを走らせた。
つや子さんと仲が良かったご近所さんの近況、桜の開花、トウガラシを植えた、稲刈り、ストーブを出した、といった季節の出来事のほか、つや子さんが残した料理のノートを見てトマトケチャップを作ったこと、娘がおいしいパンを焼いてくれること―。書き出しは「おばあさんへ」だったが、途中から、母としての気持ちがよみがえるのではと考え、「お母さん」に変えた。
今年3月から4月にかけて体調を崩して入院し、入院中に2度目の脳梗塞を発症。要介護5の寝たきりになり、自力で開封し手紙を読めなくなったつや子さんに、職員がベッドサイドで読んで聞かせてくれた。
先月から面会制限が一部緩和され、窓越しに面会ができるようになった。お互いワクチンは接種済み。「顔を見られる、声を掛けられるのがこんなにうれしいなんて」と、また瞳が潤む。「手紙は一方通行で、こちらのことを知らせることはできても、母の様子は分からないので、やっぱり心配だった」
毎回、「私のこと分かるか」と確認する。「公子」と返事がある。「100歳まで元気でおってよ」と強く励ます。コロナ前と変わらぬ気遣いの言葉「気を付けて帰りないよ」が、この日も聞かれた。そして、「また来てよ」も。
「スタッフのみなさんによくしていただいて、また会えて本当に感謝している。大好きな甘いものを介助して食べさせてあげたい。このままコロナが収まってくれれば」と願っている。
同施設は、緊急事態宣言中は対面の面会を全面禁止し、タブレット端末を使ったオンライン面会で代替していた。宣言が発令されていない間は透明アクリル板越しの面会など、状況に応じた対応を取っている。