ここは田園風景が広がる兵庫県丹波篠山市。中でも、かつて宿場町として栄えた福住地区は、とりわけのどかな時間が流れている。「福住に古着屋ができるらしいで」。そんな情報を聞きつけ、旧街道沿いにある、かわいらしい建物に向かうと、店主でイラストデザイナー・高橋舞夢さん(37)=同市=が出迎えてくれた。店内には確かに古着があるが、「古着屋というか、仕事場兼お店兼人がつながる場所というか」と高橋さん。聞けば、自身のイラストの仕事場のほか、カフェや雑貨販売などをしたい人のチャレンジショップなど、高橋さんの思いがたっぷり詰まったマルチスペース。「気楽にのんびり」と言いつつ、「福住に伝わる伝承を絵本にしたいと思っています」―。不思議な空間でじっくり話を聞いた。
店名は、「Mayim Mayim(マイム・マイム)」。元診療所の建物を活用している。
大阪府富田林市出身の高橋さん。地元にあり、両親も携わっていた劇団「カッパ座」で役者もしていたそう。そこで出会った建一郎さんと結婚し、仕事の関係で同県丹波市をへて、6年前に丹波篠山に移住した。今は10歳、6歳、3歳の母で、子育てに奮闘しながらイラストデザインを生業としている。
建物は最近まで友人が事業をしていた場所。新たな担い手を探していると知り、当初は、「仕事場や、自分が好きなものに囲まれた場所にしようかな」と考えたそう。
古着屋で働いたことがあるほどの古着好き。大阪など各地の店を巡っては、自分のサイズに関係なく、「かわいい」と思ったものを収集しており、はたと「着ないのにもったいない。市内に古着屋は少ないので、売れなくても、見て楽しんでもらえれば」と古着を置くことにした。
「さて屋号を」、と考える中、建一郎さんがフォークダンスでおなじみのイスラエルの楽曲「マイム・マイム」を歌っていた。自分の名前も「マイム」。どんな意味だろうと調べてみると、開拓地で水を掘り当てた喜びを歌っていた。マイムは「水」という意味という。「両親に言うと、『そうなん』で終わりましたが」
そんな折、建物の改修をしてもらっていた人が、福住に伝わる伝承「白馬の半左衛門」を聞きつけて教えてくれた。
「~江戸時代。天候が悪くて不作の年、庄屋の半左衛門さんが水路を造ってくれた。でも許可を取っていなかったので、藩から死罪を言い渡された。その後、大火があり、火の海の中で白馬に乗った半左衛門さんの姿が目撃された。人々は今も半左衛門さんのお墓に参るたび、火の用心を心に誓う~」
「水でつながった」と驚き、屋号を決めた。また、強い縁を感じたことから、イラストの腕を生かしてこの話を絵本にすることを決意。演出・脚本をしていた父に物語にしてもらっており、年内にも完成させたいという。「私のような移住者だけでなく、市内の人でも知らない歴史かも。子どもたちはもちろん、大人にも伝えたい」と意気込む。
チャレンジショップについては、「子育ての最中でも、『何かやりたい』と思っている人は多いはず。そんな人たちに『どうぞ』と言ってあげたいし、やりたいことをやれる場所、自分を自分らしく表現できる場所にしたい」とにっこり。
自分の店を持つのは初めて。「私の空間でもあるけれど、地域の人たちやお店に来てくれた人たちみんなに喜んでもらえる場所にしたい。気軽に来てもらえれば」と、ふんわりとした笑顔を浮かべていた。
基本は木、金曜の午前11時―午後3時にオープン。土曜日も開けることがある。店の情報はインスタグラムなどに掲載。チャレンジショップの希望者は来店して相談を。