共生

2011.10.27
丹波春秋

 「共生」。なじみのある言葉だが、英語には翻訳できないことを丹波の森公苑長の中瀬勲氏から最近教わった。日本人だけが持っているすばらしい言葉だそうだ。▼「共生の思想」という著書がある建築家の黒川紀章氏によると、日本人の美意識にも共生の考え方があると指摘する。たとえば、能学を大成した世阿弥の演技論だ。世阿弥は、老人を演じるときは、老木に花が咲いているがごとき姿を見せよ、と説く。鬼を演じるときは、心優しく演じることだとも言う。▼老人の老いと若さ。鬼の恐ろしさと優しさ。対立する要素を併せ持つことで演技に奥行きが出て、花のある表現になる。黒川氏によると、これは「異質な気配の共生」という。▼この共生は、能に限ったことではない。千利休のいう侘びもそうだろう。利休はものの喩えとして「藁屋に名馬をつなぎたるがごとし」と言った。質素な家につながれた高価な名馬。貧しさと豪華さ。この二重構造が侘びであり、世阿弥のいう幽玄にもつながると、評論家の山崎正和氏は指摘しているが、相対するものが並立した二重構造は「共生」に置き換えられる。▼すがすがしくもあり、もの悲しくもある秋。人が多く秋に惹かれるのも、秋の持つ対立要素が、共生を解する日本人の美意識を揺するためかもしれない。(Y)

 

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