ケネディの警告

2012.06.14
丹波春秋

 古代ギリシャ時代、地中海の繁栄都市シラクサを支配するディオニシオス王の権力と栄光を、臣のダモクレスが絶賛したところ、王は彼を豪華な宴に招いた。贅を極めた席で感服したダモクレスがふと見上げると、今にも切れそうな細い糸で吊るされた剣が頭上にぶら下がっていた。▼権力者の座にのし上がった「僭主」という立場がいかに危ういものかを示したという、「ダモクレスの剣」の故事。かつてケネディ米大統領は国連で「この核の時代、地球が居住に適さなくなってしまう可能性に思いをはせるべきである。ダモクレスの剣の糸はいつ切れても不思議ではない」と演説した。▼鉄骨がむき出しになった福島第1原発4号機の使用済み核燃料プールは、まさに「ダモクレスの剣」である。東電は「震度6強の地震に耐えられる」と言い、政府も是認しているが、決して信用されてはいない。▼プールの底に瓦礫と共に沈む使用済み燃料は、休まず冷却し続けない限り、桁違いの量の放射性物質を放出する。今後の処理方法や工程はほとんど決まっていない。福島ほど差し迫ってはいないにせよ、全国の原発が同じ問題を抱える。▼「背に腹は代えられない」との政府判断で大飯原発の再稼働が決まった。賛否はどうあれ、少なくともケネディの警告を脳裏に刻んでおきたい。(E)

 

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