2012.10.06
丹波春秋

 三好達治賞を受賞した篠山市在住の詩人、細見和之さんの講演要旨が過日の弊紙に載った。それによると、細見さんは、「絆」という文字を取り上げ、「牛や馬の足を縛っておくひもが絆。しがらみにも近いのが本来の絆だ」と語ったとある。▼東日本大震災を機にクローズアップされた「絆」だが、私たちは、家族の絆も地域の絆も、自分を束縛するものとして拒否してきた過去がある。おかげで家族や地域のつながりが断ち切られ、家族は同じ屋根の下に住む他人になり、地域には隣は何をする人ぞという人間風景が現われてきた。▼戦後、私たちは「個人の自由」に重きを置いた。しがらみは個人の自由を束縛するものであり、うっとうしいもの。本来、しがらみを意味する絆が踏みにじられたのは当然と言える。▼「自分のために生きる」。個人の自由が重んじられると、これが理想の生き方になる。その生き方を貫く中で、人間関係が分断され、あえて絆を取り戻さなければならなくなった。▼NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」でキャスターを務めた脳科学者の茂木健一郎さんが面白いことを言っている。「番組に出てくるゲストには共通点がある。それは、自分のためではなく、他人のために何かしていること」。他人のために生きることを見直したい。(Y)

 

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