一九九九年の誕生以来、 大型事業を次々と展開してきた篠山市だが、 市の方向性を定める 「総合計画」 に、 病院建設に関する記載はない。 瀬戸亀男市長は言う。 「医療部門は医大が担ってくれるものと考えていた」。
篠山市の地域医療を検討した委員会は報告書で、 「中核病院を国なり民間が担ってくれたことで財政上はプラスだったが、 財政負担をしないことが当たり前になり、 地域医療に対する市民の認識を十分に醸成させ得なかった」 と指摘した。
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平成の大合併で、 兵庫県は二十九市に再編された。 このうち、 市立または、 公立 (広域行政事務組合立) 病院を持たないのは、 丹波市、 篠山市を除けば、 姫路市、 尼崎市と淡路島の三市の五市しかない。 三田市は、 市民病院 (三百床) の運営に年間十四|十五億、 福知山市で六億五千万円から八億、 西脇市も六|七億円を繰り出し、 経営を支援している。
自治体立の病院経営は、 スリム化、 経費削減策の手段として、 医療法人などの民間に運営を委ねる 「公設民営化」 をとる例が増えている。
丹波市では、 市が 「内科、 外科、 小児科など九つの診療科をもつ百二十-百三十床の病院」 を春日・市島地域に建設し、 日赤兵庫県支部に運営をまかせる市立病院構想が示されている。 市立病院で、 開業医が外来診療を行う「オープン外来」を取り入れる案も盛り込んでいる。
篠山市の検討委員会は、 民間の兵庫医大篠山病院の病棟を、 公設化する案も出している。 現在の病棟を、 一括または分割で買収するか、 賃借するという内容だ。
丹波市のように、 市立病院を持たない自治体が、 民間に運営を任せるために新たに病院を建てる 「公設民営化」 は異例で、 時代に逆行しているようにも、 医療後退を避ける地方の課題を先取りしているようにも映る。
篠山病院が市に 「公設化」 を求めている篠山市の例は、「官(国)」から移譲を受けた「民」の経営が立ち行かなくなり、 再び 「官(市)」に支援を求める構図で、「官」から「民」へ、 の 「もう一歩先」 にある。
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柏原日赤、 篠山病院を建て替えるとすると、 いくらかかるのか。 両病院と同時期に建てられた市立西脇病院 (三百二十床)、福知山市民病院 (三百五十四床) は、 新病棟の建て替えが進む。 事業費は、 病棟建設費のみで西脇が約九十三億円、 福知山が約百十億円で、 二病院でみると一床あたり約三千万円。 篠山病院を同規模のまま建て替えるとすると、 六十億円を要する計算になる。 さらに医療機器の購入費が必要だ。 柏原日赤を建て替える丹波市の構想では、 整備費を四十五億円としている。
西脇、 福知山両病院とも病棟建設費の元利の四〇%は国が負担する。 丹波市が検討している合併特例債を活用すると、 国の負担は七〇%になり、 財政上は有利だ。
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ある病院長は 「経営が悪化したからと、 撤退を議論すること自体おかしい。 ”医療人”ならば、 撤退したらこの地域がどうなるのかをまず考えるべき」 と訴える。 また、 公設民営化がうまくいくのかとの懸念もある。
丹波市は市立病院の初年度の収益を 「十六億円」 と想定しているが、 昨年度の柏原日赤の額を二億円上回る。 同市医師会の田中潔会長は警鐘を鳴らす。 「経営が成り立つ見込みがない。 医師確保の見通しもない。 誰が赤字を補てんするのか。 市が永遠に続く負の遺産を背負うことになりかねない」。 また、 篠山病院に対し、 ある篠山市会議員は 「そもそも一民間病院に高額の公金を投入すべきなのか」 と疑問視する。
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「一〇〇」 を超えると財政破たんとされる指標が 「九九」 に達している篠山市。 瀬戸市長は言う。 「病院を何としても守りたいという思いはみな同じ」。 地域の”安心料”は、 いくらが妥当なのか-。